第4編 国際法に違反する「U字ライン」

中国は2009年5月に、二百海里を超える海域の領有権を主張するベトナムの文書とベトナム・マレーシア共同文書に反対する公文書を国連に送ったことで、「U字ライン」に対する主権を正式に示しました。

この行動を合法化させるため、中国は、「群島国」という1982年の国連海洋法条約の規制を引用して、ホアン・サ群島基線を画定し、チュオンサ群島基線の画定を発表しました。その行動は、二つの群島に「排他的経済水域」と「大陸棚」への領有権を求めることが狙いです。

これは、1982年の国連海洋法条約の規定に合致せず、国際地図にも合致しません。

1996年6月15日、中国は1982年の国連海洋法条約を批准しました。同期間に、中国は「領海の幅を測定するため、基線システムの規定」を発行しました。その中でも、西沙郡島「つまりベトナムのホアン・サ群島である」が含まれています。これに基き、この群島基線は28点から構成され、ダ・バク島、タイ砂丘、バク島、ナム島、リンコン島、ダ・ボン・バイ島などの最も外側にある島及び低潮時に水面上にある礁の最も外側の諸点を結んでいます。最も長い線はリンコン島からダ・ボン・バイ島が36海里、ダ・ボン・バイ島からチットン島が75海里、チットン島からバク島が80海里、ダバク島からタイ砂丘が40キロ、ナム島からリンコン島が28海里となっています。

李令華教授の評価は「この確定方法は、元々不正確だった所が多かったものの、南沙郡島に適用したい」と述べました。

この間違った源はどこから?

多くの国際海洋法専門家は「中国は『群島国』(条約の第47条)の規制を基線の確定に活用していた」と認めています。第47条は「群島国は、群島の最も外側にある島及び低潮時に水面上にある礁の最も外側の諸点を結ぶ直線の群島基線を引くことができる。ただし、群島基線の内側に主要な島があり、かつ、群島基線の内側の水域の面積と陸地(環礁を含む。)の面積との比率が一対一から九対一までの間のものとなることを条件とする。」と明記しています。

この規定に基き、中国がベトナムのホアン・サ群島の全体を囲む基線を引いたことは1982年に国連海洋法条約第47条の運用を間違いであることが分かりました。

というのは、第一では、同条約第47条に基き、ホアン・サ群島は群島国ではありません。第二では、海域を囲む基線の面積は17.000 km2に上る一方、ホアン・サ群島に浮かぶ島の総面積は10 km2しかありません。その他、これらの島は、24海里あまりの長い距離でずいぶん離れているため、この諸島の全体を囲む基線になる諸点がありません。

政府の国境担当委員会(現在では外務省の国家国境委員会)の元委員長であるチャン・コン・チュク博士によりますと、ホアン・サ群島は海洋法条約の基準に満たなかった為、この規制をもつことができないということです。


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チュク博士:「中国は同条約を運用したが、間違った」

チュク博士は「中国は同条約を運用したが、間違った。1982年の海洋法条約は『群島国は群島の全体と自国の島を取り囲んでいる基線を規定する権利がある。外側には領海、排他的経済水域及び大陸棚がある。』と明記している。しかし、それは、群島国に対する規定であり、海岸国の群島はその群島の輪郭基線の規定を許可されるという条項はない」と分析しました。

そこで、ホアン・サ群島とチュオン・サ群島に関する海域、大陸棚の範囲を計算するため、領海基線の測定方法は、国連海洋法条約の規定に基いてどのように測定されるのか?

その答えは、1982年の国連海洋法条約の第5条、6条、7条及び121条の規定に基き「海岸の全般的な方向から著しく離れている諸島、群島に対する主権を持つ沿岸国はそれぞれ島に対し領海基線を引く権限があり、その上で、海域と大陸棚を確定することができる。 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。 」ということです。

ホアン・サ群島とチュオン・サ群島に対する主権を確立することは、先決条件であり、「U字ライン」の本質を検討する際に不可欠なことです。

皆が周知するように、ベトナムはホアン・サ群島とチュオン・サ群島に対する主権を持つ国家です。ベトナムは、この両諸島に対する主権を示す価値のある法的文書と歴史的証拠を十分に持っています。ベトナム国家は、これらの群島が無人島であった頃の17世紀からこの両諸島を歴史上で初めて占有し、その主権の実施をしてきました。ベトナム国家の占有と主権実施は、事実であり、連続して平和、国際の法律規定と実践に合致しています。

現在の国際法は、いかなる国の領土保全でも武力行使で反対することを禁じています。具体的には、国連海洋法条約の第2条4項は「武力による威嚇又は武力行使を、又は政治的独立に対するものも、また、国連憲章に規定する国際法の諸原則と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。 」と明記しています。

しかし、軍事行動で、中国は、1974年にベトナムのホアン・サ群島の全体、そして1988年にチュオン・サ群島にある幾つかの島々を占拠してきました。

欧州法律家協会のモニク・シュミリエ・ジャンドロー元会長は「中国は歴史的証拠を持たず、武力行使でホアン・サ群島を占拠した。チュオン・サ群島に対しても、中国は何の権限を持たず、武力で占拠した。この行動は国際法に沿った権限であることを受け入れることは出来ない。」と強調しました。

駐ベトナム、タイ及び中国のダニエル・シェーファー元フランス大使館付武官は「ホアン・サ群島における中国の基線は、二つの基本的な原則に違反した。それは、ベトナムの領土主権に違反することと基線の決定に関する国際法の規定に違反したことである。」との結論を出しました。

また、ダニエル・シェーファーは「中国は、この群島の周りに直線基線を引く権限がない。中国が、ホアン・サ群島周辺に直線基線を引くことは不法な行動である。ホアン・サ群島における主権を錯覚したところから、中国はチュオン・サ群島の周辺に存在のない直線を引き続き引いている。」と強調しました。

中国は、ベトナムとマレーシアの大陸棚の拡大申請案に反対する声明を出した際に、「中国はベトナム東部海域にある島々及び隣接海域に対する否定できない主権を持っており、関連海域と海底及びその深海底に対する領有権と裁判権を受けている。」と理論付けました。「領有権と裁判権」及び「隣接海域」という言葉は、各島の排他的経済水域と大陸棚を暗示します。つまり、中国は、ホアン・サ群島、チュオン・サ群島が海域を十分に持っていることを宣伝することで、中国の領有権申請を合法化することが狙いです。

実際、ホアン・サ群島とチュオン・サ群島は大変小島々で構成され、独自の経済的生活がありません。ですから、チャン・コン・チュク博士は「これらの群島は独自の排他的経済水域と大陸棚を持つことが出来ない」と述べました。

中国の北京天則経済研究所とポータルサイト「新浪網」は中国で、「南シナ海での紛争、国家主権と国際規則」をテーマにしたシンポジウムを共催しました。席上、同研究所の盛洪所長兼山東大学教授は「南沙郡島(つまりチュオン・サ群島)の島々、岩は人間の長期的な生活を維持することの出来ない。国連海洋法条約の定めるところによりますと、それぞれの小島は基線から測定して十二海里を超えない範囲でその領海の幅を所有した方がいいですが、我々の中にいる人が主張している現行の二百海里 を超える大陸棚ではない。私たちは南沙郡島における幅広い排他的経済水域を領有することが出来ない。西沙も同じだ。」と率直に認めました。

中国は、ベトナム東部海域の小さなサンゴ礁における排他的経済水域と大陸棚を求める「二重規範」を維持したい一方、同じ理由で日本に強く反対したことで、自己矛盾に陥ってしまいました。

日本は,2008年11月12日に国連事務局を通じて大陸棚限界委員会に沖ノ鳥島を基点とした排他的経済水域は40万平方キロメートルと74万平方キロメートルに及ぶ大陸棚の拡大を認めるよう申請を提出しました。これに対して中国は,沖ノ鳥島の法的地位に関して日本とは異なる立場を有することから日本の沖ノ鳥島が岩であり大陸棚を有さず,大陸棚の延長申請が人類の共同の遺産を侵害することになる旨の反対意見を表明し,同委員会に対して審査を行わないよう要請しました。2009年2月6日に、その申請に対して中国は「沖ノ鳥島は、島に該当せず岩に当たる」という抗弁を提出しました。中国は,第19回国連海洋法条約締約国会合で,国連への中国常駐代表団は、「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域または大陸棚を有しない」という国連海洋法条約第121条3項について強調しました。

沖ノ鳥島事件において日本の大陸棚の領有申請が「更なる大規模な海域と域内の占拠をもたらす先例を作り出す恐れがある」に配慮して、中国は、日本の延長申請に強く反対していました。しかし、中国はベトナム東部海域で複数の人工島を建設し、排他的経済水域と大陸棚の領有権を求め、排他的経済水域と大陸棚の延長を他国の海岸から測定することを主張し、ベトナム東部海域の周辺諸国を初めとする国際コミュニティの権利に侵犯しました。

中国のこの行動は「中国は、(沖ノ鳥島の場合)同国の政治的立場を支持するときに国連海洋法条約に沿って行動しなかったが、(ベトナム東部海域の場合)中国の立場を支持しない時に、同条約を無視した」という疑惑を浮上しました。

国際法はある国が他国の同じ宣言に反対する限り、その国の合法的権利の宣言を阻止しています。

さらに、オーストラリア国防大学のカーライル・セイヤー教授は「中国の『U字ライン』地図は普通の地図に合致しない」と強調し、下記ように語りました。「国連海洋法条約の基本原則は土地が海を統治するということを規定しています。大陸と諸島に対する領有権を持つ限り、排他的経済水域と大陸棚の拡大を申請する権限があります。例えば、ベトナム海岸は大陸でなので、ベトナムは二百海里に及ぶ海域の領有権を宣言することが出来ます。しかし、中国の場合では、どの場所、どの島に沿って、二百海里の排他的経済水域を示すか全くわかりません。現行法では、影響がない小島々に沿って、排他的経済水域と大陸棚の基線を引くことは出来ないと規定していますが、中国は、それらの小島々と暗礁から測定される領海の幅を求めています。これは、国際法として受け入られません。U字ライン地図の描き方は国際地図の基準に合致しません。」

国連の大陸棚限界委員会に提出されたベトナムとマレーシアによる「大陸棚外側限界延長申請書」はチョン・サ群島にある島々を除いて、両国の陸地から延長される大陸棚を示しています。2009年3月10日のフィリピン領海基線法は、群島基線から測定される排他的経済水域と大陸棚を持つように、カラヤン諸島とスカボロー礁をフィリピン群島に組み合わせることを定めました。一方、インドネシアは「チョン・サ群島にある小島々は排他的経済水域と大陸棚を構成することはできない。人間の居住を維持することのできない岩、及び陸地から著しく離れている珊瑚礁が基線を海域構成に使用することを許可したことは国連海洋法条約の基本原則に違反し、国際コミュニティの合法利益に侵犯する」とこの問題に関する同じ見解を示しました。

アメリカ上院国土安全保障・政府問題委員会のジョー・リーバーマン委員長は「ベトナム東部海域における中国の領有権の申請は実際大きすぎだ。それは、他国が行動せざるを得ない挑発行為である。中国が直ちに中止し、いかなる行動を追加しない限り、現在の紛争が解決されると期待している。」と発表しました。

中国の人々は自国が国際コミュニティ、1982の国連海洋法条約の信頼にたるメンバーになることを希望しています。そこで、「U字ライン」の撤去は関連各国との信頼を醸成し、域内における海域画定交渉が客観的となり、協力と発展の促進に寄与することになるでしょう。

 

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