第5編 平和的交渉は唯一の措置

ベトナム東部海域いわゆる南シナ海での紛争は関連各国の関係だけでなく、他の国の利益や地域と世界の平和、安定、協力、発展にもマイナス影響を与えるとみられています。

ベトナム東部海域での平和維持は必至の要求であり、同海域に接する国をはじめ、各国の共通の願望と利益に応えるためのものとなっています。

また、ベトナム東部海域問題に関する解決策は世論の注目を集めています。小さな隣国に不利な影響を与えるような大国の一方的な領有権主張は小国の利益の確保を目指す解決策の模索に導くことは当たり前です。

アメリカ共和党の元大統領候補ジョン・マッケイン上院議員は「ベトナム東部海域問題をめぐって、中国と関連各国の間で、緊張が高まっていることにより、アメリカが同海域での存在感を向上させる必要がある」と述べました。

マッケイン氏は「この間、同地域で緊張が高まっている。こうした緊張を排除すべきで、交渉そのものは同問題の解決策となる。中国は同海域に対する主権を主張する各国と交渉し、そこから得られる資源の分配に関する協定を締結する必要がある。これは緊張を緩和させる働きがある」と強調しました。

ベトナムは自主、独立の外交路線を堅持し、ある国の支えを利用し、ほかの国に抵抗することはありません。また、ベトナムは国際法と関係各国の正当な利益の尊重を基礎に、東部海域の平和、安定の維持に向けての二国間、及び多国間のあらゆる取り組みに関心を寄せ、参加する用意があります。

2011年、行われたグエン・フーチョン共産党書記長による中国公式訪問を機に発表された共同声明は「海上の領土紛争を徹底的に解決する前、双方は東部海域の平和、安定の維持に力を合わせ、冷静な姿勢を固め、紛争の拡大、または情勢の複雑化を行わず、両国の関係を破壊しようとする敵対勢力の行動を阻止し、発生問題を建設的な態度で解決し、両国の党、国家の関係、及び東部海域の平和、安定に影響を与えないよう取り組む」と強調しました。

去る9月7日、ロシアのウラジオストクで開催されたAPEC=アジア太平洋経済協力会議の第20回首脳会議への出席を機に、チュオン・タン・サン国家主席は中国の胡錦濤共産党書記長兼国家主席と会見しました。


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ウラジオストクでのサン国家主席と胡国家主席との会見

海上の領土紛争に関し、両者は対話と交渉を通じて、また平和的措置で東部海域問題を適切に解決し、この問題を両国関係の発展に影響をおよぼさないよう力を尽くすとの見解で一致しました。

一方、同月20日、グエン・タン・ズン首相は広西省、南寧市で開催された第9回ASEAN=東南アジア諸国連合・中国博覧会とASEAN/中国ビジネス・投資サミットに参加した際、中国の習近平国家副主席と会合を行い、双方関係の促進について討議しました。両者は東部海域の平和、安定の維持に取り組み、平和的な交渉を通じてあらゆる問題を解決する必要があるという点で一致しました。

ズン首相は「現在、最も重要なのは両国の指導者の共通の立場をよく認識した上で、海上問題の解決に関する基本的な原則に関する合意書を遵守し、友好的な交渉を通じて、また、国際法、中でも1982年国連海洋法条約、DOC=ベトナム東部海域いわゆる南シナ海行動宣言を基礎に紛争と問題を適切に解決し、COC=南シナ海行動規範の作成に向け力を尽くすということである」と強調しました。

これに先立つ2012年6月、中国で、北京天則経済研究所とポータルサイト「新浪網」は「ベトナム東部海域いわゆる南シナ海の紛争・国家主権と国際原則」と題するシンポジウムを共催しました。このシンポジウムで、同研究所の盛洪所長は「中国を含め、頭部海域に接する国々の国民はいずれも200海里に及ぶ海域を有する。国連海洋法条約を遵守するならば、漁業発展と資源開発の条件に恵まれる」との見解を示しました。

盛氏は「中国が海上国境線を確定するに際し、1982年国連海洋法条約に従うべきで、いわゆる歴史的要素を基礎とすることはできない。海洋法に従って、中国を含め、頭部海域に接する国々の国民はいずれも200海里に及ぶ海域を有し、漁業発展と資源開発の条件に恵まれる。人類の角度から見れば、全局の立場を示す必要がある」と強調しました。

一方、中国社会科学研究所の張曙光教授は「1982年国連海洋法条約は海域の再確定を目指すもので、沿海諸国がいずれも200海里を有し、開発、活用、管理を容易に行い、人類は富を手にするようになることを狙う。これは私たちと周辺諸国が南シナ海の紛争を解決するための基本的な基礎となる。我が国は1982年国連海洋法条約を締約したので、この条約に従ってあらゆる問題を処理する必要がある」と強調しました。

事実、1982年国連海洋法条約をはじめ、国際法に従って、東部海域と大陸棚の紛争を平和的に解決するのはベトナムと中国国民の平和への願望に応え、東南アジア、アジア太平洋、及び世界の平和、安定、協力に合致するものとなります。これは最も正当な道です。

では、どのような措置がこれらの紛争解決につながるのでしょうか?

これまで、多くの学者と政治家は様々な貴重なアイディアを提出しました。情報通信省の情報通信出版社が出版した「東部海域でのベトナムの印し」というタイトルの本は参考に値するいくつかのアイディアを収集しました。

これによりますと、まず、各側は東部海域の沿海に位置する諸国の主権に属する海域や大陸棚の範囲、大陸棚や島嶼、群島、島国などの基線、領有権と裁判権を定める基準び説明や適用で一致する必要があります。

沿海諸国の要求に応え、1982年国連海洋法条約に盛り込まれた基準を基礎に、海域と紛争中の大陸棚の範囲を統一させる必要があります。

ホアンサとチュオンサ両群島は離島であり、島国ではなく、両群島に属する島々は小さく、生活に適しないものとして、その海域と大陸棚の範囲を定める基準も統一させる必要があります。

また、ホアンサとチュオン両群島に対する領有権の確定に適用する国際法の原則と実践を統一させ、この両群島の紛争の解決を狙っています。

政府の国境委員会(現在の外務省・国家国境委員会)の元委員長であるチャン・コン・チュック博士は「統一した基準に合致しない要求が無価値と見做されるべきである。こうした要求を出した国は国際法と実践、地域と世界の利益、平和、安定、発展を尊重した上で、前向きな態度で要求を取りやめる必要がある」との見解を示しました。

実際、多くの国は海上国境線の画定に関する交渉に参加した際、責任感と前向きな態度を示しました。ベトナムのバクボ湾(トンキン湾)の確定に関するベトナムと中国の交渉はその一例です。

交渉で、ベトナムは友好的な交渉を通じて、国際法と実践を基礎に、また、湾内の状況に配慮した上で、バクボ湾を確定し、双方にも受けられるような公平な解決策を模索することで中国と合意しました。その結果、2000年12月25日、北京で、両国は海域、排他的経済水域、大陸棚確定協定を締結し、27年にわたって行われた交渉を終結させました。

同日、発表されたベトナムと中国の共同声明は「両国が『陸上国境線画定協定』、『海域、排他的経済水域、大陸棚確定協定』、及び『両国政府のバクボ湾での漁業協力協定』を締結したことは意味深い歴史的出来事である。この締結と関係諸国と海域紛争を解決しつつあることはベトナムと地域諸国の平和、安定、協力、発展の環境づくりでの新たな一歩となり、地域と世界の平和、安定の強化に寄与するとみられます。

平和・発展の東部海域に向け、関係諸国はこれまで収めた成果を活用し、9段線からなる「U字ライン」の海域の主権に対する中国の一方的な要求を取り消す必要があります。これにより、共通の解決策を見出し、今後、発生する恐れがある紛争の解決に法的基礎を作り出します。

これらの内容の実現は容易ではなく、適切な措置と段取りを必要とします。ベトナム外務省のホ・スアン・ソン外務次官によりますと、現状に適用可能な措置は「前は優しい問題、後は難しい問題を解決する」ということです。

東部海域問題は地域と世界のすべての国の注目を集めています。その解決はその域内だけでなく、域外の国々の善意と政治的責任感によるところが大きいといえるでしょう。

 

 

ご感想

安齋 真一

中国の膨張主義には何とも困ったものです。インド・カシミールでも東シナ海でも同様のことが起きています。

VOV特集記事の視点から外れますが、ベトナムの人々に分かってもらいことがあります。

▼中国の軍事支出は1989年の180億ドル(約1兆7653億円)から2012年には1570億ドル(約15兆3970億円)まで拡大し、23年間で750%増加したのに対して、日本の軍事費は23年間でわずか29%増にとどまり、実にささやかなものです。インフレを考慮すれば、ほぼ変わりません。中国の急速な軍事拡張に対して、周辺諸国は警戒感を深めており、特に直接対峙する日本は冷戦全盛期並みの防衛費増額を実現しなければなりません。ただし、そう簡単に増額とはいかないでしょうが。

▼我が国の海上自衛隊の護衛艦に対して、中国海軍の艦船が射撃管制レーダーを照射する事件がありました。我が国の抗議に対して中国外務省は事実を把握しておりませんでしたが、後日中国海軍が政府指導者の判断を仰がないで行ったことが明らかにされました。一歩間違えれば大変な事態が起きていたことでしょう。一般的な交戦規程をもつ国ならば射撃管制のレーダーが照射された時点で交戦に入ったことでしょう。話を戻しますと、ここでわかることは中国の政府指導者は既に軍部を統制掌握できないという事実です。周辺諸国は中国軍部の暴発には十分注意をする必要があります。更には軍部が自分たちの利権のために政治分野に関与する兆候すらみせていますが、これも十分注意をする必要があるでしょう。

▼ベトナムより巡視船10隻供与の要望が出ております。しかし、振り向けられる海上保安庁には中古船がないため、ベトナムに供与するにしても新造船となるでしょう。ただ問題が無いわけではありません。巡視船は、乗務員を保護するための防弾用装甲を施しているため、日本の輸出貿易管理令に規定される「軍用船舶」に該当し、日本の武器輸出三原則等において憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、輸出を慎むとされている武器に当たります。このため、日本の支援により供与される巡視船が日本のODAの対象であり、テロ・海賊行為等の取締りや防止のみに使用され、それ以外の目的で使用されないことや巡視船を日本の事前の許可なしに第三者に移転されないことを確保する必要があります。我が国は国家予算で他国の軍組織への供与へは禁止されております。

一方で、ODAによらない巡視船などの装備品供与は、国内での法的枠組みがないため行うことができません。防衛省が昨年度から行っている能力構築支援も、人材育成支援に限られております。財政法の規定に基づき、特別な法律がなければ物品供与が許されないのです。

ベトナムの海上警察は、ベトナム人民軍の組織であることを我が国は承知しております。従ってこれはベトナムとの協議になるでしょう。しかしベトナム政府はフィリピン・インドネシアの例を調査していると言われていますので解決は可能と思われます。

日本は平和憲法を堅持してきましたが、ここにきて友好国への支援を行う場合の国内でのハードルの高さが、改めて浮き彫りとなっております。

▼1946年11月3日に現在の日本の憲法が公布されました。ポツダム宣言受諾後、憲法を作るために我々日本人は英知をかたむけて草案を作成しました。しかし何度やってもGHQ(連合国最高司令官総司令部)は納得しませんでした。そして最後にはGHQが草案を作って日本政府に提示したのです。つまり日本国憲法はGHQが作った憲法なのです。今、これが時代に即さない憲法であると我が国では問題になっております。

▼ベトナムの人々は、ベトナム戦争や越中戦争で自らの命を国のために捧げてきました。いつまでも

独立不羈(どくりつふき)の人々であることを願っております。

長文お許し下さい。

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