山崎 こんにちは、山崎千佳子です。
アン こんにちは、アンです。
山崎 まず、お詫びと訂正です。先週のハノイ便りで、ハザン省にある日本人が作ったコーヒー店についてお伝えしました。その際、小倉靖さんを「おぐな」さんとお伝えしていました。正しくは小倉靖さんです。お詫びして訂正いたします。失礼しました。
アン これからこのようなことがないように、気を付けていきます。
山崎 はい。今日のハノイ便りはベトナムの旧正月、テトのお供え物についてということですが。
アン はい。今年の元日は1月28日で、あと2週間ほどです。
山崎 テトに欠かせない金柑の鉢植えをバイクで運んでいるのを見かけます。あとテトに飾るのは、桃の花でしたっけ?
アン そうです。そして、花以外に、今度のテトはどんな果物を買うか、という会話もこの時期ならではです。
山崎 お供え物の果物ですね。会話のねたになるぐらい大事なんですね。前におしゃべりタイムでもこの話をしましたよね。
アン はい。果物は、テトの祭壇への供え物として欠かせないものなんです。「Mam ngu qua」という大きな皿の上に、五色の果物を綺麗に並べて飾ります。縁起物です。
Mam ngu qua
山崎 昔からのものだと、飾る果物も決まってるんじゃないですか?でも、今年の果物はどうするか、という話をするんですよね?
アン はい。この頃は、その大皿に飾られる果物は変わってきています。特別な形をしている果物を並べて飾る人が多くなっています。それで、テトが近づくと、話題になるんです。
山崎 なるほど。大皿と5つの果物は何か意味があるんですよね。
アン はい。その供え物の大皿「Mam ngu qua」の意味です。「mam」はお盆、「ngu」は数字の5、「qua」は果物で、大皿の上に五色の果物という意味になります。
山崎 だから5種類用意するんですね。その色にもそれぞれの意味がありましたよね?
アン そうです。五つの色は、黒、赤、青、白、黄色で五行と呼ばれているものです。黒は水、赤が火、青が木、白が金、黄色が土を意味します。
山崎 古代中国の五行説ですね。
アン はい。例えば、赤はドラゴンフルーツやスイカ。青は、青いバナナや青いパパイヤ、黄色はザボンやオレンジなどです。
山崎 黒い果物はあまりないような気がしますが。
アン 暗い色の果物を用意します。果物の種類も、地方によって変わります。北部では五色の果物として、青いバナナや仏手柑(ぶっしゅかん)、唐辛子、梨、 蜜柑を飾ります。
山崎 ブッシュカンというのは初めて聞きました。名前のように、仏の手のような形なんですか?
アン そうですね。両手で合掌しているような形で、ミカン科の果物です。南部では、ココナツやパパイヤ、マンゴー、フサナリイチジクなどの縁起のいい果物が使われます。家族全員揃って、正月を穏やかに過ごせるようにという願いを表しています。
山崎 並べ方など、何か決まりはありますか?
アン まずは、五色はそろえないとだめです。そして、並べ方もあります。硬くて重いもの、例えば青いバナナは下に置きます。軽くて色の明るいものはその上に乗せます。五種類しか皿に置かない家もありますが、五種類以上の果物をいろいろ盛り付ける家庭もあります。
山崎 じゃあ、最低五種類で、五種類ぴったりでないとだめと言う訳ではないんですね。
アン はい。果物も、ベトナム産だけでなくて、輸入物も使ったりします。テトの間、ずっと飾るので、長持ちするように、熟していない果物が使われます。
山崎 テトが終わったら、食べるんですね。
アン そうです。テト用の果物で最近人気のあるのが、形のユニークなものです。
山崎 どんなものでしょう?
アン ひょうたんの形です。仙人の酒壺はひょうたんの皮から作られたという伝説があるので、ひょうたんの形をしている果物をテトの祭壇に置くと、その一年は幸運に恵まれるという考えです。
山崎 でも、ひょうたんの形の果物ってありますか?
アン そういう形に作っているところがあるんです。南部メコンデルタ地域のハウザン省チャウタイン県です。ホーチミン市から南西へおよそ180キロ離れたところにあります。
山崎 南部だと、果物がたくさんとれるでしょうね。
アン はい。この地方は元々、ナムロイという美味しいザボンの産地ですが、2009年のテト前に、ある農園がひょうたん形のナムロイザボンを発売したんです。ザボンの表面には、才能の「才」と天禄の「禄」という意味のベトナム語が浮かび上がっている2個セットのザボンです。
テト用のザボン
山崎 文字が浮かび上がっているというのは、どういうことでしょう?
アン 栽培している時に、ひょうたん型のプラスチックをかぶせるんですが、その型に文字もデザインされていて、文字が刻まれたようになるんです。いわゆる成型ですね。
山崎 なるほど。そうするといろいろな文字が作れますね。
アン そうなんです。「福」や「寿」、天禄の「禄」の3つを意味するベトナム語の3個セットのザボンもありますし、お釈迦様の手や金塊の形が刻まれたザボンも人気を集めています。
山崎 金塊。金の塊ですね。それだけの縁起物だと、いい値段ですか?
アン サイズや形、デザインされた文字によって違いますが、1個40万ドンから100万ドンくらいです。
山崎 日本円だと、2000円から5000円くらいですね。高いですよね?
アン そうですね。普通のナムロイザボンは50円なので、テト用はかなり高いですね。
山崎 40倍から100倍ですか?すごいですね。
アン でも、ザボン農園のオーナーによりますと、今まではテト用のザボンをおよそ1万個出荷していたそうですが、今年は、大幅に減ったそうです。
山崎 どうしてでしょう?そのオーナー(ボー・チュン・タインさん)の話です。
(テープ)
「今年は、1万個から1万5千個を収穫するという目標でしたが、天候のせいで、3000個ぐらいになると思います。予約をたくさん頂いていて、現在200個ほどしか残っていません。今年は、全てのお客様の要望に応えられそうもありません。」
山崎 天気が良くなかったんですね。ザボンの他に、テト用の果物はありますか?
アン 先ほどご紹介した縁起のいい言葉がデザインされたスイカがあります。新年に健康や幸運を祈るという意味を持つ俳句や、桃の花、梅の花、龍の形がデザインされたスイカもあります。
山崎 いろいろな果物にプラスチックの型を使って育てて、成型するんですね。
アン そうです。形自体がユニークなものもあります。金塊の形や四角形のスイカです。「才」と「禄」の2個セットは日本円で1万5000円ぐらい、3万円のセットもあるそうです。そういう高いスイカの皮は緑ではなく、金色だそうです。
山崎 凝ってますね。でも、お金持ちじゃないと買えないですね。
アン そうですね。テト用のザボンとスイカは高いですから、最近ではユニークな形でも安いテト用の果物が出ています。例えば、パパイヤです。大体、日本円で700円から1000円位です。そのパパイヤを栽培しているハウザン省チャウタイン県の農家(グエン・ティ・ウオムさん)の話です。
(テープ)
「テト用の果物は、パパイヤやマンゴー、サワーソップなどがあります。今までのパパイヤは緑か黄色しかなかったので、真っ黄色の皮に緑で文字を浮かび上がらせるというのを作りました。「福」や「禄」、「寿」、「才」という4つの言葉を入れました。お客さんは自分の願いが入ったものを買っていきます。サワーソップも緑でなく、黄色になるよう栽培しました。」
アン 肥沃な土壌に恵まれているハウザン省チャウタイン県の果物の栽培面積は1万1千ヘクタールに上っています。最近では、テト用の果物でさらに有名になりました。
山崎 先ほど農家の人の話に出てきたサワーソップも南国の果物ですね。普通は外が緑でトゲトゲがあって、果肉はヨーグルト風味です。テト用の果物がこんなに様々で、工夫されているとは知りませんでした。選ぶのも楽しそうですね。アンさんは、どんな果物を用意するんですか?
アン (コメント)
山崎 では、おしまいに一曲お送りしましょう。「~」です。
(曲)
「~」をお送りしました。今日のハノイ便りは、ベトナムの旧正月、テトのお供え物の果物についてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。