山崎 こんにちは、山崎千佳子です。アンさんとハノイ便りをお送りします。アンさん、よろしくお願いします。
アン お願いします。山崎さん、今日の話題は「ハットチェオ」なんですが、ハットチェオは知ってますか?
山崎 ちょうど1か月前のハノイ便りで「ハットサム」についてお伝えしましたよね?あの伝統民謡のハットサムとは違いますか?
アン 「ハット」という同じ言葉はつきますが、違うものですよ。ハットチェオは、ベトナムの民衆オペラとも呼ばれているものです。
山崎 民衆オペラ。歌の劇、歌劇ですね。
アン そうです。ベトナム北部のタイビン( Thai Binh) 省にあるクオック( Khuoc) 地区は昔から、そのハットチェオが土地に息づいているところなんです。今日のこの時間は、クオック地区のハットチェオについてお伝えします。
(テープ)
山崎 今、お聴き頂いたのは、クオック地区に住む6才の女の子、ファム・ティ・ハイ(Pham Thi Hai) ちゃんのハットチェオです。
アン クオック地区の多くの人々は、本当に幼い時、言葉を発する時期ぐらいからチェオを歌うことができるようです。
山崎 すごいですね。ハットチェオは民衆オペラということですが、どんな感じなんでしょう?
アン 歌と踊りと楽器の調べが調和して、物語が展開します。オペラと言うとちょっと堅苦しい感じがしますが、ハットチェオはわかりやすいカジュアルな劇ですね。
山崎 いつぐらいからあるものですか?
アン 11世紀に、村祭りで上演されたことから始まるようです。ハットチェオは、ベトナムに伝わる伝説や歴史、農村の生活などを、歌と踊りで楽しむ庶民のための娯楽でした。
山崎 さきほどアンさんが「歌と踊りと楽器の音が調和して」と言っていましたが、ハットチェオには踊りも含まれているんですか?
アン はい。ハットチェオの魅力は、その優雅な動きにあります。役者が歌いながら美しい動作で手を動かすだけで、観客は夢の世界へと惹き込まれます。
山崎 特に、タイビン省のクオック地区のハットチェオが有名なんですね。
アン そうです。この地域でいつ頃から広まったかよくわかっていませんが、19世紀初頭からクオック地区には15のプロのハットチェオグループが結成されていました。
山崎 愛好家たちの集まりでなく、職業としてのグループなんですよね?それも15というのは多いですね。
アン そうですね。クオック地区のハットチェオはグエン朝時代の宮廷でも上演されました。こういったことから、クオック地区はハットチェオの多くの演者の出身地となりました。また、この地域には、他の地方にない18のチェオのメロディーがあるんです。クオック地区に住むグエン・ティ・ミン( Nguyen Thi Minh) さんの話です。
(テープ)
「私にとって、ハットチェオに代わるものはありません。心と体に沁みついています。うちの家族は、みんな、ハットチェオを演じることができます。みんな、上手です。」
山崎 クオック地区の文化分野の担当者、クアック・バン・サウ( Quach Van Sau) さんは次のように話しています。
(テープ)
「ここの集落の人たちは、生まれた時から、母親がハットチェオを歌い、子供の寝かしつけをしています。人々の心に染み込んでいるんです。私たちにとってハットチェオは、毎日の食事や水のように欠かせないものなんです。」
山崎 今日のハノイ便りは、ベトナム北部のタイビン省にあるクオック地区のハットチェオについてお伝えしています。ここで、一曲お送りしましょう。「~」です。
(曲)
「~」をお送りしました。
アン クオック地区のハットチェオの舞台は、四方に仕切りがありません。全てを見渡すことができる観客にも一体感がうまれます。ハットチェオの演者は、即興の掛け合いもできます。
山崎 ハットチェオの公演が行われる時には、演者の人たちは、何か持参するんですか?
アン はい。道具と衣装を入れるための箱を持っていくんです。この箱も、ハットチェオの公演に、身の回りの小道具として使われます。また、扇子もいろいろな役割を果たす重要な道具の一つです。
山崎 扇子はどんな風に使われるんですか?
アン 登場人物の性格を表すのに使われるんです。例えば、扇子を早く閉じたりする人は短気でせっかち、などというようにです。クオック地区のハットチェオはそこに住む地元の人々のように、素朴なものとなっています。
山崎 クオック地区でハットチェオクラブの活動をとりまとめているグエン・バン・ロー( Nguyen Van Ro) さんの話です。
(テープ)
「この辺の人々はハットチェオのメロディーを歌うのがとてもうまいので、歌詞の内容がより深くなります。例えば、酔っ払いが登場する“空の布団を掛ける”という歌を聴くと、本当に酒に酔った人が歌っているように感じられます。」
(テープ)
山崎 現在、ベトナム各地に残っているハットチェオの楽曲150曲のうち、クオック地区の人たちは100曲を歌えるということです。クオック地区にしかないハットチェオのメロディーもあります。クオック地区の文化分野の担当者、クアック・バン・サウ ( Quach Van Sau) さんの話です。
(テープ)
「ここの人々は即興で歌詞を作るのが、他の地方の人たちよりうまいと思います。もともと脚本がなかったものも上手に上演できます。台本がないとは、観客はまったく気づきません。」
山崎 昔から時が経っても、ハットチェオに対するクオック地区の人々の思いはあせることなく、生活の中で欠かせないものとなりました。
アン 毎年、新春には、クオック地区でハットチェオののど自慢大会が行われ、多くの人が参加します。ハットチェオでテトを過ごすと言われています。
山崎 では、おしまいに一曲お聴き頂きましょう。「~」です。
(曲)
「~」をお送りしました。
今日のハノイ便りは、ベトナム北部のタイビン省クオック地区のハットチェオについてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。
Chao cac ban。