山崎 こんにちは、山崎千佳子です。
ソン こんにちは、ソンです。
山崎 今日のハノイ便りの話題はTrau Cau(チャウ・カウ)ということなんですが、チャウカウ、初めて聞きました。何ですか?
ソン ベトナム語で、Trau(チャウ)とは蒟醤(キンマ)というコショウ科の薬草のことです。Cau(カウ)はビンロウジュというヤシ科の植物を指します。この2つの言葉を併せてTrau Cau(チャウ・カウ)と言うと、これらを原料に用いた嗜好品を意味します。
山崎 嗜好品というとちょっと抽象的なんですが、具体的にどんなものなんでしょう?
ソン 熟していない若い緑色のビンロウジュの実を細かく切って、それに石灰をまぶしてキンマの葉に包んで噛むんです。
山崎 ガムみたいなものですね。
ソン そう言えますね。口の中で苦い汁と唾液が混ざって、舌がしびれてくるんです。それで気分がよくなってきたりするんです。
山崎 お酒を飲んでほろよい加減、みたいな感じでしょうか。
ソン そうですね。私は小さい時にちょっとだけ口の中に入れたことがあるんですけど、噛まなくてもすごく苦い味で、すぐに吐き出しました。
山崎 それだけ強い味なんですね。
ソン そうですね。口の中も真っ赤になるんです。
山崎 ええ、何でですか?
ソン ビンロウジュにはニコチンと同じ「アルカロイド」という植物成分が含まれているんです。石灰がそのアルカロイドと反応して、口の中が赤くなります。
山崎 チャウカウはベトナム独特のものなんですか?
ソン 熱帯のアジア各地にあるようです。ベトナム以外に、中国、タイ、ミャンマー、インドなどです。ちょっとした原料の違いはありますが、キンマとビンロウジュ、石灰を使うというのは同じです。
山崎 暑いところだと、そういう刺激がほしくなるのかもしれませんね。
ソン そうです。厳しい気候の中での重労働などに、チャウカウはよく利用されていたようです。
山崎 たばこと同じ感じでしょうかね。ベトナムでは昔から使われていたんですか?
ソン 今からおよそ数千年前に存在したベトナム建国の王、フン王の時代からチャウカウが使われていたと言われています。
山崎 今ではどうでしょう?
ソン 日常生活ではほとんどなくなってきているのが現状ですが、冠婚葬祭ではチャウカウは欠かせません。
山崎 先ほど出た、たばこやお酒のような作用があるからでしょうか?
ソン そうですね。チャウカウで気分がよくなって、その場の雰囲気もよくなるからだと思います。
山崎 伝統的なコミュニケーションツールかもしれませんね。ここで、一曲お送りしましょう。「~」です。
(曲)
「~」をお送りしました。
ソン チャウカウは工芸品にも影響を及ぼしています。チャウカウの材料のキンマやビンロウジュを入れる容器があるんです。石灰を入れる容器、Bình Vôi(ビンボイ)も質素な原料で作られたものもあれば、高度な工芸品となっているものもあります。
山崎 普段使いの物から高級品まであるんですね。
ソン はい。銅や象牙などを使った見事な彫刻が施されたものもあります。
山崎 ベトナム南部ティエンザン省の文化研究家( Truong Ngoc Tuong)の話です。
(テープ)
「結納式や結婚式にチャウカウを使う場合、それに見合う綺麗な道具を使います。お寺に参拝する時も、お供え物にチャウカウは欠かせません。」
山崎 先ほども話が出ましたが、今では、日常生活の中でチャウカウを噛む習慣がなくなってきたということですが、冠婚葬祭には大事なものなんですよね。
ソン はい。多くの地方で、冠婚葬祭の時にチャウカウを飾り付けるという職業の人がいます。その中の一人、ベトナム南部のカントー市の女性( Ly Thi Thanh)の話です。
(テープ)
「ご先祖や神様にチャウカウをおそなえする時は、綺麗に飾らなければなりません。結納式では、まずチャウカウが出されます。その後、新郎新婦の家族が結婚式の準備について話し合いをするんです。チャウカウは大事なんです。」
ソン 肉体労働、重労働の際の嗜好品とされてきたチャウカウですが、ベトナムでは女性の文化と言えるかもしれません。
山崎 どうしてでしょう?
ソン チャウカウには虫歯予防の効果があると信じられてきたんです。ベトナムには、女性がお歯黒をする風習がありました。これも虫歯予防にいいようなんです。
山崎 歯を大切にするベトナム女性の文化ということなんですね。
ソン そうかもしれません。今では日常生活ではほとんど見られなくなったチャウカウですが、物事の節目である冠婚葬祭には残っていってほしいと思います。
山崎 では、おしまいに一曲お送りしましょう。「~」です。
(曲)
山崎 「~」をお送りしました。
今日のハノイ便りは、チャウカウについてお伝えしました。そして私事ですが、来週と再来週の2週、お休みを頂きます。また4月17日のハノイ便りから参加させて頂く予定です。それでは、今日はこのへんで。