地域で異なるテトを楽しむ習慣


旧正月テトはベトナムで最も大きくて重要な行事の一つです。一年は二十四節季の始めの節、つまりベトナム語にするとテトです。ベトナム人にとって年齢や住居を問わず、テトは家族の団欒のチャンスであり、ご先祖を思い起こし、先祖の恩に報いる機会でもあります。しかし、テトを楽しむ習慣はそれぞれで、似ているところもあれば、地方によって異なるところもあります。

ベトナムはもともと農業国ですから、豊作にしてくれた神に対する感謝の気持ちを表すためのものなのです。そして、テトに、家族全員が集まって食べながら、お互いに、前の年のできごとについて分かち合うとともに、新年の幸運や健康などを祈ります。そのため、先祖に供える料理を作ることと家族団欒の新年パーティーはとても大切にされます。伝統文化の研究者フィン・ゴック・チャんさんは次のように話しています。
(テープ) 

「昔から、ベトナム人はテトを収穫後の農業儀式としています。また、ベトナム人は、お米を「天からの(」としています。その中でも一番重要なのはもち米です。だから、どの地方でも、神と先祖の恩に報いるのに使われる供物の中にはもち米でできた食べ物があります。」

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バインチュン

テトに欠かせない代表的なもち米料理は、北部では「バインチュン」、南部では「バインテット」です。「バインチュン」と「バインテット」とは両方ともほぼ同じですが、形が違います。もち米の中に緑豆と豚肉を入れてゾン(ウコン科)の葉で巻き、10時間ほどゆでたベトナム版大型ちまきです。しかし、北部のバインチュンは四角形()である一方、南部のバインテットは丸型()棒状()をしています。

また、南北に細長いベトナムは地方によって気候が違いますので、正月料理は天候に左右されます。四季のある北部は冬にテトを楽しむので、暖かい食べ物が多いです。一方、一年中暑い南部では、冷たい食べ物の方が多いです。

そして、ベトナム北部の家庭の食卓に欠かせないテト料理の一つは、ソイ・ガック(xoi gac)です。ソイは「おこわ」、ガックは、着色する植物の実です。もち米にガックの実を入れて()()むとできるオレンジ色の甘いおこわです。日本ではもち米にアズキを入れて炊くと赤飯()ができますが、それのベトナム版のようなものです。ハノイの料理研究者グエン・ティ・トゥエットさんは次のように話しました。
(テープ) 

「テトには、皆、何か幸運の兆しや吉祥があれば、いいなぁと思うので、テトの集いには必ず赤いソイ・ガックのお皿があります。北部の人々にとって、ソイ・ガックのお皿は家族に幸運を与える新年のシンボルなんですよ。」

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生姜の砂糖まぶし

一方、中部と南部では、テトによく食べられるものとして甘いもの、それも特に果物などの砂糖まぶしです。中部の古都フエでは、生姜の砂糖まぶしが欠かせないテト用の食べ物です。フエの市民グエン・フー・ナムさんは次のように話しました。
(テープ) 

「生姜の砂糖まぶしはフエの特産物です。フエの生姜は他の地方より美味しいし、香りもいいのです。テトに生姜の砂糖まぶしを食べながら、お茶を飲むのは最高です。ピリッと辛いながらも、甘い生姜の砂糖まぶしはお茶の()として、フエの気候にも合いますよ。」

そして、南部では、テト料理の中にニガウリ・スープがあります。ニガウリはベトナム語で「コー・クア」(kho qua)と発音され、その中で、「コー」は辛いとか大変という意味で、「クア」は助長する意味があるので、ニガウリ・スープは、辛いのが過ぎる・大変なことが過ぎるという通過してゆく希望をあらわします。

旧正月テトの祭壇には、縁起物()を意味する五色()の果物を美しくに並べて飾りつける大きなお皿が置かれるのはベトナム全国各地共通の習慣ですが、地方によって果物の種類が違います。北部では、バナナ、ザボン、みかん、柿などが一般的です。それに対し、南部では、ココナッツ、パパイヤ、マンゴなどです。そして、北部の人々はよく、桃の花で家を飾りますが、南部では、黄色の梅の花がよく飾られます。

生活が現代化している中で、テト用の供物や料理は簡単になっている傾向がありますが、その中の価値と意味は常に、受けつがれてゆくことでしょう。


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