ベトナム中部高原地帯テイグエン地方の特産を語るならば、ズゥオ・カン(Ruou can) という地酒を抜きには語れません。ズゥオ・カンとはテイグエン地方で伝統的に醸造し、壺に入った米のワインで、壺酒とも呼ばれています。テイグエン地方に居住しているクホ族にとってズゥオ・カンは単なる地酒でなく、多くの儀式に欠かせないものとなっています。
少数民族クホ族の昔話には、常にズゥオ・カンが出ています。このルオン・カンは、神様を祀る儀式に供え物としてだけでなく、結婚式や葬式などにも欠くことができません。これらの昔話によりますと、クホ族は大昔からズゥオ・カンを造ってきました。
クホ族の人々は、原料には山や丘に植えられた白米を使います。ズゥオ・カンの作り方は簡単です。米は固く炊き上げてから籾殻、トウモロコシ、タピオカなどと混ぜて乾燥させます。米に対して4~5%の量の麹を数回に分けて散布します。麹は米などの穀物に食品発酵に有効なカビを中心にした微生物を繁殖させたもので、米と地元の何種類かの葉から作ります。
ルオウ・カンを作るクホ族の女性
麹を撒いた米飯を入れる容器は、バナナの葉を敷いた籐でできた籠を用います。クホ族は蒸し煮した籾殻を容器の底に5~6センチの厚さに敷き、ご飯を乗せます。甘酒のような匂いが生じたら、糖化が十分に行われたと判断し、容器の中身を発酵用の小さな壺に移します。内容物の中央に穴を掘り、籾殻を壺一杯に詰めてバナナの葉などで蓋をし、数日間発酵させます。
発酵が完了したズゥオ・カンを飲む際には蓋を開けて上部の籾殻を取り除き、水を注いで米粒に浸透するまで30分ほど待ちます。吸管酒として壺に差しこんだ竹の管から直接飲みます。壺の中身が少なくなったら水を足して飲み続け、その日に飲みきり、翌日には残しません。
クホ族は、ズゥオ・カンを入れる壺はズゥオ・カンの神様が住むところだと考えています。そのため、壺は神聖で貴重な財産です。数十頭の水牛の価値に値する古い壺もあります。クホ族は、家族の豊かさはその家族が所有する壺と銅鑼の数で示されると考えています。テイグエン地方の文化研究者リュー・ザン・ゾアンさんは次のように話しています。
(テープ)
「クホ族にとって一番貴重なものは銅鑼とズゥオ・カンの壺です。それぞれの家族には少なくとも2つの壺があります。壺はズゥオ・カンを入れるためだけでなく、その家族の豊かさを示すためでもあります。」
ルオウ・カンを飲む
ズゥオ・カンの壺と銅鑼はいつも、クホ族の儀式に現れます。ズゥオ・カンを飲みながら、銅鑼を打ったり、踊ったりするのはクホ族の儀式でよく見かけられる風景です。クホ族の一人ク・ティ・ソンさんは次のように話しています。
(テープ)
「ズゥオ・カンはクホ族の生活に欠かせないものです。例えば、お正月や収穫祝いの祭りなどでは必ずズゥオ・カンを飲みます。親からズゥオ・カンの作り方を習いました。最近、注文がたくさんあるので、儀式のためだけでなく、お客さんの要求に応えるためにもよく造っています。」
近年、ズゥオ・カンはテイグエン地方の有名な特産になっており、クホ族を含むこの地方の少数民族にとって大切な稼ぎ手になっています。