母系社会のクホ族は、結婚において女性が主体的です。現在、結婚に関するクホ族の習慣はほとんど従来のまま保たれていますが、現代生活にふさわしい変貌を見せています。
結婚において女性が主体的という特徴は、「夫を捕まえる」という習慣に示されます。この習慣では、女性が、「好きな男性を捕まえたい」と両親に伝えると、両親は媒酌人に頼み、その男性の家族と話し合ってもらいます。
もし、男性の家族が同意したら、女性の家族と男性の家族は結納式と結婚式の日時、及び、持参金について話し合います。それに対し、男性がその女性に捕まえられたくなかったら、男性の家族は、女性の家族が応えられないほどの高額な持参金を求めます。
クホ族の女性たち
クホ族は、男性の力は家族の財産で、男性の家族は高額の持参金を求める権利があると考えるのです。女性の家族は男性の家族の要求に応えなければなりません。男性が健康であればであるほど、男性の家族の要求が大きくなり、女性の家族にとって大きな負担になります。
かつては、クホ族にとって大きな財産である水牛やドラ(銅鑼)セットなどを持参品にしたことがありますが、現在は、適当なお金のほか、鶏やお酒などを求めるのが一般的です。クホ族の一人クナムさんは次のように話しています。
(テープ)
「かつては、女性は持参金がある限り、結婚できる。そうじゃないと、結婚できない人もいましたが、今でも持参金を求める習慣が残っています。いい男性だったら、5千万ベトナムドン(日本円で約23万円)を求めることがありますが、3千万ベトナムドン(日本円で約14万円)を求めるのが一般的です。」
女性の家族が男性の家族の要求に応じれば、結婚式の日に、男性の家族へ持参金と持参品を持っていきます。花婿の家族は、その持参金と持参品を祭壇に置いて、先祖に告げる儀式を行います。儀式の後、花嫁の家族は家へ花婿を迎え、結婚式を行います。村長は花嫁の家族の祭壇の前で、新夫婦の幸せな生活を祈る儀式を催します。その後、村人は歌ったり、踊ったりするなど婚姻の宴を楽しみます。
結婚後、花婿は女性の家庭に住むようになります。かつて、結婚式の日に、花嫁の家族が、花婿の家族に求められた持参金を十分に用意することができなければ、花嫁は、持参金を十分に出すまで花婿の家に住まなければなりませんでした。しかし、現在は、そのような習慣は緩和されましたが、クホ族の社会は依然として母系社会ですから、子どもは母親の苗字を持ちます。そして、家族の財産を相続するのは娘だけです。クホ族の一人クジャンさんは次のように話しています。
(テープ)
「現在、クホ族の人々はほかの民族から良い習慣を学びました。女性の家族は男性の家族へ持参金と持参品を持っていくという習慣は維持されていますが、どうしても持参金と持参品を十分に用意しなければならないというわけではありません。二人がお互いに愛情を持っているだけでいいんです。もし、女性の家族が十分に用意しなければ、男性の家族は手伝うというケースが多いです。ただ、女性が主体的であるという特色は守られています。」
そして、クホ族は、今もなお、結婚生活を守るため、昔から伝わってきた厳しい掟を保っています。例えば、浮気や近親相姦、理由なしの離婚などは罰を受けます。罰が軽い場合、水牛やお酒を村に納めるのに対し、重ければ、コミュニティーから離れなければならないこともあります。それは、クホ族の社会を支える柱とされています。