ベトナムの身近な話題をお伝えするハノイ便りの時間です。
山崎 こんにちは、山崎千佳子です。今日も、アンさんとハノイ便りを進めていきます。アンさん、ここのところ、ベトナム南部のチャビン省に住むクメール族の人々が大忙しということなんですが。
アン そうです。クメール族の祭り「オクオムボック」の準備で忙しくなっているんです。
山崎 どんなお祭りですか?
アン オクオムボックは、クメール族の年中行事の中で、3つの重要な祭りの一つです。毎年、旧暦の10月14日と15日の二日間行われる「お月さまのお祭り」です。クメール族の人々にとって、月は天候を管理する神様で、農業が順調にいくのは、お月様のおかげとされています。
山崎 だから、重要なお祭りなんですね。オクオムボック祭りの準備で、特に忙しいのが?
アン コムゼットを作る人たちです。コムはご飯、ゼットは平らという意味で、直訳すると「平べったいご飯」です。収穫にはまだ早い青い稲穂のもち米で作ったおこわのことです。これが祭りに欠かせないので、コムを作る人が忙しくなるんです。
山崎 今日は、このコムゼットについてお伝えします。
アン ベトナムでも、青いもち米のおこわを作る地方は多くありますが、コムゼットを作るのはクメール族の人々だけです。チャビン省バーソ村ではコムゼット作りが伝統になっています。
山崎 そのコムゼットの作り方、簡単にご紹介しましょう。普通のお米やもち米は稲穂が黄色っぽくなってきてから収穫されますが、このコムゼットを作るもち米はその通常の収穫前の状態で加工されます。若い稲の青い色をしています。脱穀した稲を底が丸い釜で炒ると、もみの中の若いもち米に火が通って、ふっくらとしてよい香りがしてきます。その後、臼に入れて杵でついて籾殻を除きます。これを大きなザルに入れて振ります。すると籾のかすが外へ飛んで、もち米だけが残ります。これを平らにすると、コムゼットとなります。
アン ここのところ、チャビン省バーソ村の人々は、オクオムボック祭りに使われるコム作りのため、一日中忙しい毎日です。3世代にわたって、コム作りに携わるチュオン・ティー・ジー ( Truong Thi Di) さんは、「クメール族のコムゼットを作るのはあまり難しくはないものの、美味しいものを作るにはある程度の経験が必要」と話しています。
(テープ)
「私は17才ぐらいから、ずっとこの仕事をしています。一日、40キロから60キロのコムゼットを作ります。昔はオクオムボック祭りだけにコムゼットを作っていましたが、今では一年中作っています。このコムは、ソクチャン省、ビンロン省、ホーチミン市などでも売られています。売れ行きはとてもいいんですよ。」
アン コムゼットを作るのには、手間がかかります。大体、4人が8時間から9時間作業して、40キロから60キロのコムゼットしかできません。現在、コムゼット1キロはおよそ20万ドン、日本円でおよそ1000円で売られています。一人当たりの一日の収入はおよそ15万ドン、日本円でおよそ750円です。
山崎 大変な作業ですが、収入が安定しているということで、バーソ村の多くの世帯がこのコム作りを行っています。30年にわたって、コムを作るタック・ミエル(Thach Miel) さんの話です。
(テープ)
「毎日、夜中の12時から朝8時までコムを作ります。昼間は、農作業があるためです。もう長いことこの生活なので、大変さは感じていません。コム作りをやめる方がつらいですね。」
山崎 今日のハノイ便りは、チャビン省のクメール族の伝統、青いもち米のおこわ作りについて、お伝えしています。ここで一曲お送りしましょう。「~」です。
(曲)
「Tinh tham duyen que」をお送りしました。
アン 10年前には、まだまだ少なかったクメール族のコムゼット作りですが、コムゼットの消費市場が拡大されたため、現在ではバーソ村のおよそ100世帯がコムゼット作りに関わっています。
山崎 バーソ村の人々は、一年を通して、コムゼットを作っているということですが、一番おいしいのは秋冬に作付けされた稲を原料とするものといわれています。
アン 現在では、コムゼットの原料を一年中手に入れることができるように、バーソ村の行政は、コムゼットを作るためのもち米の生産地区を区画整理しています。その他、「バーソ村のコムゼット」という商標の登録も進めています。
山崎 バーソ村人民委員会のタック・ゴック・ニー( Thach Ngoc Nhi) 副委員長の話です。
(テープ)
「バーソ村のコムゼット作りの伝統は、いい方向に進んでいますが、コムゼットの商標、トレードマークがないので、消費者にあまり知られていません。今後は商品作りと、村の発展に力を入れていきます。」
山崎 昔、クメール族のコムゼットは神様へのお供え物だけに使われていましたが、今では、この地方の特産品となってきています。コムゼットの消費市場も広がっています。これから、コムゼットを作る伝統と村が共に発展していくことが期待されています。
アン そうですね。では、おしまいに一曲お聴き頂きましょう。
山崎 (曲) 「Hat doi Nam Bo」をお送りしました。
今日のハノイ便りは、チャビン省バーソ村のクメール族の伝統、青いもち米のおこわ作りについてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。
Chao cac ban。