山崎 こんにちは、山崎千佳子です。
ソン こんにちは。ソンです。山崎さん、お久しぶりです。
山崎 お久しぶりです。1か月半ほどお休みを頂きました。また今日からハノイ便りを担当させて頂きます。今日のハノイ便りは、水上人形劇についてなんですね。水上人形劇はハノイ観光で欠かせないものになっていますね。
ソン そうですね。ホアンキエム湖のほとりにある水上人形劇場は、いつも観光客でにぎわっています。
山崎 今日ご紹介するのは、ベトナム北部タイビン省の水上人形劇ということなんですが、タイビン省のものは何か違うんですか?
ソン いえ、ハノイと同じものですが、水上人形劇はタイビン省で始まったものなんです。
山崎 なるほど。発祥の地なんですね。タイビン省はどの辺にありますか?
ソン はい。北部のホン河デルタ地域の沿海部にあります。海に面していて、かつ3本の川に囲まれているんです。タイビン省は、美しい砂浜と肥沃な土壌に恵まれています。
山崎 ハノイもホン河デルタ地域ですよね。近いですか?
ソン はい。タイビン省はハノイの南東100キロぐらいのところにあります。
山崎 海と川に囲まれていると、農業によさそうですね。
ソン そうなんです。タイビン省は北部のコメの生産地として知られています。なので、ベトナム農村部の伝統的な文化がたくさんあるんです。ベトナムの伝統歌劇のハットチェオや水上人形劇の発祥地とされています。
山崎 タイビン省には、いろいろなところに水上人形劇があるんですか?
ソン 省全体ではないと思います。ドンカックという地区とグエン地区がよく知られています。特に、グエン地区の水上人形劇は長い歴史を持っています。
山崎 農村の伝統文化ということは、水上人形劇は農民たちの娯楽だったんですね。
ソン そうですね。初めは、農閑期の遊びとして行っていたようです。
山崎 でもなぜ普通の舞台ではなくて、水上なんでしょう?水の中で人形を動かすのは大変ですよね。
ソン 環境だと思います。川や池、水田などが多いタイビン省ならではのものなんじゃないでしょうか。
山崎 なるほど。水に囲まれた生活の中で自然に生まれたんでしょうね。いつぐらいからあるんですか?
ソン グエン地区のお年寄りによると、15世紀のレ王朝時代からということです。山崎さん、水上人形劇はベトナムの伝統歌劇のハットチェオと共に演じられるのは知ってますか?
山崎 いえ、恥ずかしながら、水上人形劇は未体験なんです。
ソン ぜひ見てください。おもしろいですよ。グエン地区は、ハットチェオの村として知られているクオック地区に近いので、住民はハットチェオも上手なんです。
(テープ)
山崎 (コメント)
ソン 水上人形劇には、必ず「テウ(Teu)」が出てきます。劇の冒頭に出てきて、観客を劇へといざなう登場人物です。
山崎 どんな人形ですか?
ソン テウは水上人形劇の代表的な人形です。7歳から8歳くらいの男の子で、ぽっこり出たお腹、ウサギの耳のように二房だけ上に束ねた髪の毛が特徴です。
山崎 それを聞いてわかりました。裸に赤いベストを着てる男の子ですよね。二房だけの髪の毛以外は坊主頭じゃないですか?
ソン そうです。そのテウは古いベトナム語で「笑い声」を意味します。名前の通り、テウはいつも笑顔で楽観的です。手を振ったり水を飛ばしたりなどして、観客を笑わせます。
山崎 ナレーターというか語り役ですか?
ソン それだけではないですね。演目紹介をしたり、官僚の汚職を指摘する役など、さまざまな役柄を演じます。
山崎 グエン地区の人たちは、このテウを操る時にいろんな気持ちを込めるそうです。グエン地区水上人形劇グループの副団長( Nguyen Ba Thang) の話です。
(テープ)
「テウがいないと、水上人形劇はできません。テウは、ベトナムの水上人形劇のシンボルなんです。」
(テープ)
山崎 (コメント)
ソン グエン地区には、水上人形劇の舞台として知られる集会所があります。300人を収容できて、ベトナムの農村部にあるものの中で、最も近代的で立派な舞台と言われています。
山崎 地区というと、村よりも小さい行政単位ですよね。そこに300人収容というのは大規模ですね。
ソン はい。それだけ盛んなんですね。1980年に水上人形劇が初めて、ベトナム国外で上演されました。フランスで行われたんですが、それにグエン地区の住民6人が参加したんです。
山崎 すごいですね。プロの人たちとともに選ばれたんですね。水上人形劇の人形も自分達で作るんですよね?
ソン そうなんです。現在、グエン地区には様々な大きさの人形が1000個あります。1メートルにもなるテウもあります。
山崎 グエン地区では、観光客に人形の制作過程を詳しく説明してくれるそうです。グエン地区水上人形劇グループの副団長( Nguyen Ba Thang)の話です。
(テープ)
「水上人形劇に使う人形は、水辺に植えられたイチジクの木を材料として作られます。樹齢を重ねた木ほど、作るのが楽で、人形の質がよくなります。」
山崎 人形の大きさは30センチから100センチ、重さは1キロから5キロだそうです。グループそれぞれで製作するため、劇団ごとに姿、形、衣装が違うということです。
ソン 水上人形劇には、人形をサオで操るものと紐で操るものの2種類がありますが、紐で操る方がより難しくなります。先ほどのグエン地区水上人形劇グループの副団長( Nguyen Ba Thang)の話です。
(テープ)
「タイビン省には16の水上人形劇グループがありますが、うちの地区のように、紐で操るのは他にありません。私たちは趣味として水上人形劇をやっていますが、実は体にはよくないんです。どんなに寒くても、水中に首までつかって、人形を操作するからです。終わった後には、手や首、肩がとても痛くなります。」
(テープ・現場の音)
山崎 グエン地区で水上人形劇が始まって、500年から600年になりますが、いまだに文化が保存されています。グエン地区の住民( Nguyen Van Thu)の話です。
(テープ)
「この地区の水上人形劇の演者たちは人形劇がとても好きなんです。好きだから、この伝統芸能を維持できていると思います。これは1番大切なことです。」
山崎 グエン地区の人たちの本職は農業です。アマチュアでありながら、伝統を守っていく。すごいことだと思います。では、おしまいに一曲お送りしましょう。「~」です。
(曲)
「~」をお送りしました。
今日のハノイ便りは、べトナム北部にあるタイビン省グエン地区の水上人形劇についてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。