(VOVWORLD) - ベトナム北部山岳地帯に暮らす少数民族テイ族の伝統的な楽器である琴「ティン」はユネスコ国連教育科学文化機関によって無形文化遺産として認定された民謡「テン」に欠かせない存在です。
そのため、テイ族の人々は琴「ティン」を大切に保っており、多くの人がその維持に取り組んでいます。そのうちの一人がランソン省バクソン県バックイン村にある小さな木工所のオーナー ズオン・ゾアン・クアンさんです。
ズオン・ゾアン・クアンさん |
琴「ティン」は3本の弦を持つ弦楽器で、演奏するときは右の人差し指を使って弦を弾きます。テイ族の伝説によりますと、大昔、ティンは弦が12本あり、その琴の音色は人間だけでなく、万物の心を奪ってしまったそうです。そのため、天の神様はティンの弦を12本から3本に減らしたと言い伝えられています。しかし、弦が3本になっても琴「ティン」の音色は依然として人間を魅了しています。特に、ティンの音色がなければ、民謡「テン」は響かないとよく言われています。
1992年生まれのズオン・ゾアン・クアンさんは幼い頃から、民謡「テン」と一緒に琴「ティン」をよく聴いていたから、「ティン」に特段の興味を持っていました。社会人になって親から木工所の経営を継いだクアンさんは、この仕事を「ティン」の製造に活用することにしました。彼は多くの地方へ行って「ティン」のベテラン職人からこの楽器の作り方を習いました。
クアンさんによりますと、琴「ティン」を作るためには職人の技が求められるとしています。ティン本体はひょうたんから作られていますが、そのひょうたんは大きすぎず小さすぎず、その円周は60センチ~70センチぐらいがよく、また、ひょうたんは熟したものでなければなりません。そうでないと、皮が厚くないので、よい音が出せないからです。
ひょうたんの口の部分を切り、その内部を取り除いてから、1週間ぐらい水に漬けておきます。その後、きれいに洗って、乾燥させます。そして、2、3日ほど石灰水に漬けます。これは、 キクイムシの防止対策です。そうしないと、キクイムシに食べられて使い物にならないからです。ひょうたんは石灰水に漬けてから、また乾燥させます。その後、ひょうたんに穴を開けます。穴のサイズはひょうたんのサイズ次第ですが、職人の経験が生かされます。
次は、表板を作ることです。琴ティンの表板は、柔らかい木でできていて、その厚みは3ミリほどです。
ティンづくりでは、指板(しばん)をつくることに最も細やかな神経が求められます。指板は柔らかい木でできますが、その木は15年以上のものでなければなりません。指板は弾き手の手に基づいて作られますが、80センチ~100センチまでの長さが一般的です。指板の先には渦巻(スクロール)という部分があります。三日月の形をしている渦巻には、職人の性格や美意識を表わす模様が刻まれるとしています。
ひょうたんのほか、本体が銅で作られた琴「ティン」もわずかにありましたが、銅で「ティン」を作れる人はほとんどいません。しかし、ベテラン職人の経験から学びながら、創意工夫を凝らしたクアンさんは銅製の「ティン」を作れるようになりました。クアンさんの話です。
(テープ)
「私は民謡「テン」が歌えるし、親から大工仕事を継いだので、琴「ティン」を作ってみたいと思いました。それぞれの歌い手の声に見合うような「ティン」を作ることは私の最大の楽しみです。特に、かつては、本体が銅で作られた「ティン」もありましたが、今はわずか残っている程度です。この「ティン」は響き渡る素晴らしい音色を持つと言われています。私はそのような「ティン」を作ることができましたよ」
琴「ティン」を紹介しているクアンさん |
琴「ティン」の製造に詳しいクアンさんは、古い「ティン」を修理・復元することでも知られています。中でも、銅製の「ティン」の修理・復元は彼の「ティン」の職人としての評判を高めています。そのため、国内の有名な「ティン」のアーチストの多くはクアンさんのお客さんになっています。また、中国からも多くの注文を受けています。クアンさんの話です。
(テープ)
「私の木工所は年平均約100個の琴「ティン」を作ることができます。種類は、儀式用の「ティン」から、演奏用の「ティン」や飾り物としての「ティン」まで様々ですが、儀式用の「ティン」は私が自分で作っています。ほとんどの注文は近隣からのものですが、遠いところからの注文もあります。近年、民謡「テン」が徐々に普及しているため、琴「ティン」への需要が高まっているようです」
近年、ランソン省の各地で、民謡「テン」と琴「ティン」を楽しむ人が多くなっているため、クアンさんの木工所への注文が増え、徹夜してお客さんの注文に応える日もあります。多忙でも、クアンさんは村の民謡「テン」クラブの活動に積極的に参加し、子どもに琴「ティン」の弾き方を教える教室でも活躍しています。バックイン村人民委員会のズオン・ゾアン・トゥアン副委員長は、地元で民謡「テン」と琴「ティン」が普及するようになったのにはクアンさんの貢献があったと述べ、次のように語りました。
(テープ)
「地元で民謡「テン」と琴「ティン」の公演チームが設立されました。このチームは現地行政府の支援と、クアンさんのような職人の指導・応援により、活動を広げています。また、クラブはこの伝統芸能を保つために、教室を開いており、生徒は高齢者や中年層もいれば、子どももいます。これは、伝統文化の保存はもちろん、地元の観光開発にも役立っています」
クアンさんが作った琴「ティン」はこれからも響き渡り、テイ族の無形文化遺産である民謡「テン」の保存と開発を進めることでしょう。