フードバンクのベトナム版・「十分なハノイ」プロジェクト

 

山崎  こんにちは、山崎千佳子です。 

ソン  こんにちは、ソンです。山崎さんはベトナムに住んでどれくらいですか?

山崎 3年ちょっとです。

ソン ベトナムもどんどん発展してきたと思いませんか?

山崎 そうなんですよね。3年の間だけでも、かなり便利になったと思います。いろいろなお店ができて、いい意味で他の国の文化もたくさん入って来ていると思います。

ソン そうですね。ベトナムはこの10年以上、経済発展が続いているんです。国民の生活もかなり改善されていると思います。でも、その反面、貧富の差も大きくなりつつあるんです。

山崎 わかります。都心部でも、率直に言うと、土間のようなところに大家族が住んでいたり、日本でもなかなか見ない外国の高級車が走っていたり、格差がありますね。

ソン そうなんです。そして、経済成長を続けているものの、まだ発展途上国のベトナムには、貧困に苦しむ人も少なくありません。そういったことから、ここ数年は、貧困層の人たちを支援するボランティア活動が盛んになっています。

山崎 いいことですね。

ソン はい。ボランティアの中でも、「十分なハノイ」というプロジェクトは、社会の注目を集めているんです。今日のハノイ便りは、その活動をご紹介します。

山崎 十分なハノイ。物が足りているということですか?

ソン そうです。あるところで余った物を捨ててしまうのでなく、それを足りていないところに回す、という取り組みです。

山崎 社会全体で見て、物は十分に足りているというのを言っているんですね。ソン はい。この十分なハノイは、おととし2013年の8月に、ハノイの大学生5人で立ち上げたプロジェクトなんです。アメリカで1960年代に始まった「フードバンク」という慈善活動を真似したものでした。

フードバンクのベトナム版・「十分なハノイ」プロジェクト - ảnh 1
貧しい人たちに食べ物を配っている「十分なハノイ」のメンバー
(写真:sucsongtre)


山崎 フードバンクの団体は日本でも多くあるんですね。NPO法人、民間非営利団体として活動しています。品質に問題がなくても、包装の不備などで商品価値を失った食品を企業から寄付してもらって、それを貧しい人たちに供給している団体です。

ソン 現代社会では、日本語の「もったいない」という状況が本当に多いですよね。まだ美味しく食べられるのに、パッケージが壊れているとか、ラベルの印字ミス、売れ残り、形が悪い、食べきれないなどの理由で、廃棄されている食べ物がたくさんあります。

山崎 その一方で、失業や病気、様々な理由で、その日食べる物に困っている人たちもたくさんいるというのは、ちょっと考えるとおかしな話ですよね。

ソン 本当ですね。フードバンクはその両方を繋いで、企業や個人から、まだ食べられるのに不要になった食品を無償で受け取り、それらを必要とする人達に無償で届けます。

山崎 食べ物は廃棄される事なく、本来の意味で使われるんですね。食品を提供する企業も、商品の処分にかかる費用を抑えられますし、福祉活動に貢献していることで、企業価値の向上にもつながりますね。

ソン そうなんです。十分なハノイは、毎週水曜と土曜の午後に、ハノイ市内のレストランや食品企業などへ行って、廃棄される食べ物を集めます。

山崎 それを再び包装して、食べ物に困っている人たちに直接配るということです。賞味期限切れのものではなく、安全に食べられるものです。

ソン 配給を受ける人は、ホームレスや闘病中の人、体の不自由な人などです。十分なハノイのメンバーの話です。

(テープ、ディン・ゴック・トゥイさん)

「私たちは、体に障がいを持つ人たちのセンター5か所のほか、ストリートチルドレン、身寄りのないお年寄りなどに、食べ物を届けています。レストランはもちろん、一般家庭でも、捨てられてしまう食品がかなりあります。これはもったいないですし、環境汚染にもつながります。ハノイ市内でも、栄養のある食事ができない人が結構いるんです。だから、このプロジェクトが誕生しました。」

ソン この2年、晴れの日も雨の日も、十分なハノイのメンバーたちは、水曜と土曜の午後に、食べ物に困る一人一人に心をこめて食品を届けてきました。これまでに配ったのは数千食です。

山崎 メンバーは最初にプロジェクトを立ち上げた5人から、30人に増えたそうです。それに加え、300人のボランティアもいます。ソンさん、日本のフードバンクはNPO組織で、スタッフはお給料をもらって活動していますが、この十分なハノイはどうなんですか?

ソン まだ単なるボランティアグループなんです。みんな無給で、純粋なボランティアとしてやっているんです。十分なハノイのメンバーの話です。

(テープ、グエン・ティ・ドゥイ・ズンさん)

「今は、グループが組織として整備されてきました。3つの部門があるんです。まずは営業部。ホテルやレストランに支援を呼びかけます。データも作って管理しています。次はプロジェクトをどのように進めていくか考える企画部です。3つ目は広報担当です。このシステムで、安定した活動ができるようになりました。」

ソン このように話すメンバーですが、初めは、様々な問題があったそうです。

山崎 どんな問題でどのように乗り越えて来たんでしょう?

ソン 配給を受ける人が恥ずかしさからなかなか食べ物を受け取らなかった、とか、行政府が食品の質に疑問を持った、レストランやホテルが食品の配達方法について注文をつけた、などです。でも、誠意を持って、美味しい食べ物を安全に届けるという信念で、人々の信頼を得ました。

山崎 週に2回食べ物を配るだけでなくて、イベントも行っているそうですね。

ソン はい。「暖かい冬・十分なお正月」や「食べ物を大切に・地球を大切に」というテーマのイベントを行いました。大勢の人が参加したんですよ。

山崎 参加者が多いと、社会から注目を集めますね。

ソン そうです。これまで、この十分なハノイには、およそ50のレストランやホテルが協力しています。食品の提供だけでなく、食材の保存方法や食の安全についても詳しく教えてくれているんです。

山崎 この2年、プロジェクトに協力しているレストランのマネージャーの話です。

(テープ、レー・ミン・ホアンさん)

「他のレストランにも参加を呼び掛けています。廃棄される食べ物は、店では何もできず捨てるしかないんです。もったいないです。それが、厳しい生活を送っている人の役に立つのは、とても意義のある活動だと思います。」

山崎 プロジェクトに関わるようになって、レストランスタッフの気持ちも変わってきたそうです。「食べ物は命につながるもの、大切にしよう」という十分なハノイの活動テーマのもと、少しの野菜でもお米一粒でも食材を大事にするようになったということです。

ソン 配給を受ける人にとっては、この活動は単に食事をもらえるものではなく、社会の温かさを感じるものでもあります。十分なハノイから食べ物を受け取っている人のコメントをご紹介しましょう。ハノイ最大の食品卸売市場、ロンビエン市場で30年間、荷物の運搬をして生計を立てている女性の話です。

(テープ、ファム・ティ・リンさん)

「お腹が空いているときの一口は、言葉になりません。食べ物をもらって、感動しました。遅い時間、夜でも、ボランティアの若者たちが食べ物を持ってきてくれるんです。本当にありがたいです。」

ソン 今月の下旬に、十分なハノイは、「暖かい冬・十分なお正月2016」と題したイベントを行う予定です。数千人のボランティアを募集して、4万食の提供を目標としています。

山崎 大規模な企画ですね。そして、今はまだシンプルなボランティア団体の十分なハノイですが、最終的には他の国のような民間の非営利団体を目指すということです。まずはこれから、ハノイだけでなく、ベトナム全土に活動を広げていくのが目標だそうです。 では、おしまいに一曲お送りしましょう。「~」です。

(曲)

「~」をお送りしました。

今日のハノイ便りは、ボランティア団体「十分なハノイ」の活動をお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。


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