(VOVWORLD) - 「嫁さらいの風習」は、北西部の山岳地帯で暮らすモン族をはじめ、いくつかの少数民族の伝統的な風俗習慣です。しかし、この風習はかつてと変わって、女性の意見を無視して強制的に結婚させる誘拐婚となっているのが現状です。こうした事態を前に、これに反対して立ち上がっているモン族の女性もいます。
モン族の結婚 |
かつての「嫁さらいの風習」では、男女が結婚に同意すると、男性はあらかじめ女性をさらいに行く日と場所を相手に知らせる。約束の日になると、男性は友人を数人誘って女性をさらいに行く。女性は事前に知っていても、突然の出来事であるかのようにふるまい、泣き叫ぶふりをする。女性が大きな声で泣き、抵抗すればするほど、結婚後の家族が幸せや子宝に恵まれるとともに、家族と隣人に尊敬される、と考えられているということです。この風習が長年、モン族のコミュニティで存在している理由は、モンの男性は自分が勇敢で、頭が良く、そしてその女性を愛していることを伝えるために、女性を連れ去るということにあるとされています。
しかし、この数十年、この風習はよくない方向に変化してきました。男女が付き合って結婚に同意することなく、男性はお気に入りの女性の気持ちを無視し、友達の支援を受けて彼女を誘拐して強制的に結婚させるようになっています。さらに、定期市やお祭りに行き、今まで会ったことがなかった女性を気にいったからといって、男性がその女性を誘拐して結婚を強いるケースも少なくないようです。
モン族の伝統では女性が自分で逃げなければならないので、女性の両親が誘拐婚に反対しても、娘が自力で逃げ出すのを祈ることしかできません。女性が逃げ出せた場合でも、モン族の伝統に従って既婚女性とみなされるため不満が残ります。そのため、誘拐した男性と結婚したくなくても、結婚に同意せざるを得なかった女性も少なくないのが現状です。これはモン族のコミュニティでの児童婚率が高いことの理由の一つとされています。
2019年に行われたベトナム53の少数民族の社会経済状況に関する調査結果によりますと、モン族は児童婚率が51.5%と最も高く、モン族の2人に1人が未成年で結婚しています。
ベトナムでは、女性は18歳、男性は20歳から結婚可能な年齢とされています。世界銀行によりますと、児童婚は2030年までにベトナムのような発展途上国の医療費、所得の損失、労働市場での生産性の低下に何兆ドンもの損失をもたらすと言われています。
そのため、少数民族居住地の行政府は、児童婚率の減少、および誘拐婚の撲滅を目指すために、いろいろな措置を講じていますが、数十年間密着した風習を変えるのは簡単ではありません。しかし、この風習に抗うモン族の人が増えています。ラオカイ省サパ町に暮らすモン族の若い女性マー・ティ・ジーさんはその一人です。
マー・ティ・ジーさん |
2017年のはじめに、14歳のジーさんは、年初の定期市を楽しんだ際、会ったことのない青年に誘拐されて結婚を強いられました。誘拐婚を受け入れたほかのモン族の少女とは異なり、ジーさんは激しく抵抗し、誘拐婚を受け入れなかったのです。今年20歳のジーさんは当時のことを思い出し、次のように語りました。
(テープ)
「突然さらわれたとき、私は驚きました。そのときの私の頭の中にある考えはただ一つ、もっと理解するためには学校を続けなければならないということです。だから、周辺の反対を無視して『嫁さらいの風習』から抜け出す決意を固めました」
当時の同級生の多くがすでに結婚している中、こうした決意を固めたジーさんは、「既婚女性だ」、「さらわれた」などと言われても、無視して学校に通い続けました。現在のジーさんは選択の自由を持つことができる大人として「嫁さらい」で結婚するのではなく、自分で見つけて本当に愛する人と結婚することもできました。また、モン族の民族衣装を売るオンラインショップを営むという好きな仕事をしています。ジーさんの話です。
(テープ)
「私が山間部の少女たちに送りたいメッセージは、常に自信を持って夢を叶え、やりたいことをやり遂げるということです。世の中には、学んでいないこと、知らないことがたくさんあることを知って頂きたいと思います」
「嫁さらい」に関するセミナーに出席するジーさんとお母さん |
ジーさんのお母さんチヤウ・ティ・サイさんは「嫁さらい」で結婚しました。6年前に、娘の決意をみたサイさんは、風習に抗って娘の選択の自由権を守りました。サイさんの話です。
(テープ)
「娘は高校を卒業し、多くの知識を身につけられることを望んでいましたが、最初は伝統的な風習なので、何もできないと思いこんでいました。しかし、娘が強く反対したため、その青年の両親と相談して説得しました。現在、ジーが幸せな生活を送っているのをみて、本当にうれしく思います」
ジーさんは、モン族の女性が「嫁さらいの風習」から抜け出す取り組みの模範となっています。ベトナム女性連合会のトン・ゴック・ハイン副会長は、同連合会はジーさんを模範としてひろめ、少数民族コミュニティの男女平等を促進していると述べ、次のように語りました。
(テープ)
「私たちは、12のガイダンス資料を公表し、8つの省で典型的なモデルをつくりました。これらの資料は紙はもちろん、電子版もありますが、すべて少数民族の言語に翻訳されました。男女平等に関する少数民族の女性と少女の認識を高めるために宣伝啓蒙活動を行うとともに、女性の収入増加を目指す措置も講じています。これは女性の社会的威信を高め、児童婚の削減に役立つでしょう」
ジーさんの人生は「霧の中の子どもたち」という長編ドキュメンタリー映画で紹介されました。100分近いこの作品では、ジーさんと周囲の人々との関わりから、守っていくべき伝統的な風習と現代の価値観のはざまで生きる少女の様子を描いています。この映画の監督ハー・レ・ジエムさんは、世界最大のドキュメンタリー映画祭「アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭2021(IDFA 2021)」の国際コンペティション部門で、最優秀監督賞を受賞しました。この映画のような取り組みは少数民族コミュニティでの男女平等の促進と児童婚の削減を促すことでしょう。