(VOVWORLD) - ベトナムの少数民族モン族出身のリー・ミー・クオンさんが、伝統楽器の魅力を国内外に広めています。今年初め、中国・シンガポール国際音楽コンクールの伝統楽器部門で、クオンさんはモン族の横笛「ケン」を用いた「森の調べ」で第1位を獲得しました。この快挙により、ベトナムとモン族の文化を世界に紹介する機会を得ました。
モン族の独特な横笛「ケン」を演奏中のクオンさん |
(横笛『ケン』の音色)
竹でできた横笛「ケン」はモン族にとって神と人間をつなげるもので、とても貴重な楽器です。また、この楽器は、恋人や友達に自分の気持ちを伝えるものとして、人間同士の大切なコミュニケーション手段の一つでもあります。そのため、ケンは団結を重視するというモン族の民族性を示すものです。
6本の竹からなるモン族の横笛「ケン」は、それぞれの長さによってその音色が違いますが、一番大きくて短い竹はそのメロディーのベースをつくる役目があります。「ケン」の音色は清らかで、聞く人の心に染み込んでゆきます。
特に、若い男性にとってケンは恋する女性に自分の気持ちを伝える愛のメッセージのようなものです。ケンを吹きながら、上手に踊ることができる男性は、女性の理想的な結婚相手とされています。そのため、ケンの特徴は、動き回り体を動かし踊りながら、ケンを吹くことです。
しかし、横笛ケンは、恋愛感情を示す手段であるだけでなく、結婚式や葬式、お祭りなどすべての行事にとって欠かせない存在でもあります。ケンは、嬉しい時も、悲しい時も、そして、お祝いの言葉を述べたい時も自分の気持ちを表す手段なのです。
北部山岳地帯ハザン省の山村で生まれ育ったクオンさんは、幼い頃から横笛「ケン」に親しんできました。クオンさんの「ケン」への愛着は、祖父や父、そして近所の人々の影響から芽生えました。モン族の男性たちは、畑に出かけるときも市場に行くときも、いつも「ケン」を携帯していたのです。クオンさんの父親であるリー・ミー・ポーさんは、息子の音楽への目覚めを次のように振り返りました。
(テープ)
「クオンのために練習用の笛『ケン』を購入しました。練習を始めると、クオンの上達ぶりには目を見張るものがありました。毎日基本的な曲を熱心に練習し、わずか1〜2ヶ月で演奏技術は飛躍的に向上しました。そして瞬く間に、クオンは笛の虜になってしまったのです」
父親に買ってくれた横笛「ケン」を出発点としたリー・ミー・クオンさんは、独自の試行錯誤と先人たちの教えを通じて技術を磨き上げていきました。クオンは自身の音楽への道のりについて次のように語りました。
(テープ)
「15歳でベトナム国立音楽院に入学しました。『ケン』への愛着は、生まれ育った土地の音楽に深く触れることで芽生え、次第に大きく育っていきました。そして、その思いがプロの音楽家を目指す決意へとつながったのです。私には音楽への情熱だけでなく、私たちの民族が持つ独特の文化を守り、さらに発展させたいという強い願いがあります」
(クオンさんの演奏)
ベトナム国立音楽院では伝統楽器を学びながら、自身の潜在能力を最大限に引き出すことに努めました。その結果、トヨタ奨学金の授与や模範的少数民族学生賞の受賞など、その努力が実を結びました。
クオンさんは国内外の音楽コンクールに積極的に参加し、2022年にはベトナムタレントスター大会や中国の有名な伝統音楽コンクールで優勝しました。さらに昨年11月には中国・シンガポール国際音楽コンクールのベトナム民族楽器部門で優秀賞を獲得しました。クオンさんの話です。
(テープ)
「中国・シンガポール国際音楽コンクールでモン族の横笛『ケン』を演奏し、伝統音楽部門で1位に選ばれた時は、本当に感激しました。中国やインドネシア、マレーシアなど、他国からの参加者たちの技術レベルの高さに驚きましたね。実は、コンクール参加の目的は、ベトナムやモン族の文化を紹介し、国際交流の機会を得ることだけだったんです。この受賞は、音楽への情熱を追求し、ベトナム文化を世界に広めていく上で、大きな励みになりました」
クオンさんの挑戦はこれにとどまりません。モン族の民族音楽を現代的に発展させるため、伝統楽器とヒップホップやラップを融合させる試みも行っています。「ハザン省の特色ある文化を多くの人に知ってもらい、実際に訪れて体験してほしい」という思いがその原動力です。
「レン・ガン」音楽プロジェクトのディレクター、グエン・クオック・ホアン・アイン氏は、クオンさんの努力は賞賛すべきであると述べ、次のように語りました。
(テープ)
「クオンさんは故郷の文化遺産に深い愛着を持つ人物です。私も彼と伝統音楽プロジェクトで協働した経験がありますが、その姿勢には感銘を受けました。特に、グローバル化が進む中で、少数民族の若者たちが自分たちの文化遺産をいかに守り、ベトナムの文化的景観を豊かにできるかを真剣に考えている姿は、とても尊敬に値することだと思います」
情熱、才能、そして努力を兼ね備えたリー・ミー・クオンさんはハザン省のモン族コミュニティの若い世代を代表する存在として、伝統文化への深い愛着を保ちながら、新たな高みを目指し続けています。