少数民族の言語の保存

山崎  こんにちは、山崎千佳子です。 

ソン  こんにちは、ソンです。今日のハノイ便りは、少数民族の言語の保存活動についてお伝えします。

山崎 ベトナムは多民族国家で、少数民族が多いんですね。

ソン はい。54民族が暮らしています。総人口およそ9300万人のおよそ86%を占めるのがキン族で、少数民族は53あります。

山崎 ベトナムの公用語として使われているベトナム語はキン族の言葉ですよね。それぞれの少数民族は、また独特の言葉を持っているということですね。

ソン そうです。54の民族がいますが、ベトナムで使われている言語はおよそ90あると言われています。少数民族の人たちは、ほとんど、公用語のベトナム語と自分たちの言語の2つを使っています。そして、近隣に住む他の少数民族の言葉ができる人も少なくないです。

少数民族の言語の保存 - ảnh 1
クメール語教室

山崎 すごいですね。方言というレベルではなく、全く違う言葉のようですから、何か国語も話せるということですね。

ソン そうですね。でも、その少数民族の言葉もだんだん少なくなってきているんです。

山崎 それは世界的に言われていますね。地球上にはおよそ6500の言語があると言われていますが、19世紀から現在までにおよそ2000の言語がなくなっていて、さらに毎年12ほどの言語がなくなるという説もあるそうです。

ソン ベトナムでもそうですね。少数民族は人口も少ないので、なくなってしまう言語があるんです。

山崎 ベトナムの各少数民族の人口はどれくらいですか?

ソン 100万人以上の民族は4つだけです。人口1万人以下がかなり多くなっています。人口が千人以下の民族もおよそ20あります。少数民族の居住地は、ほとんどが山岳地帯で、その全部が集まって住むこともないので、点在している形です。

山崎 少ない人口の上、バラバラに住むとなると、やはりその民族の言語人口の低下につながるかもしれませんね。

ソン はい。そして、その言語の半分ぐらいは文字がないということも少数民族の言語の保存にマイナスになっています。

山崎 文字がないと、学校などで教えるのも難しいですし、紙に残せないと伝えていくのはかなり厳しいですね。

ソン そうなんです。少数民族の言語が少なくなっているもう一つの原因は、言語差別などはないんですが、学校や職場などではどうしても公用語のベトナム語になるので、少数民族出身の若者がベトナム語を民族の言葉よりよく使う傾向があるんです。

少数民族の言語の保存 - ảnh 2
学校に通っているモン族の子ども

山崎 確かにコミュニケーションのためには共通の言葉が必要ですからね。でも、そのまま言語がなくなってしまうのはよくないですよね。何か対策などは取られているんですか?

ソン はい。多民族国家のベトナムは、各民族は平等で、それぞれが自分の文化を守る権利があるという考えなんです。言語は文化から切り離せません。

山崎 そうですね。言語は思考ですからね。

ソン VOV、VOV4になりますが、少数民族の言語による放送を行っています。少数民族の人への情報提供と、その言語の保存と発展も目指しているんです。

山崎 VOV4では、モン族のモン語やタイ族のタイ語、エデ族のエデ語など12の言語で放送されているということですが、アナウンサーは、それぞれの少数民族の人ですか?

ソン そうです。VOV4は、AM放送と短波放送で1日に合計で30時間の放送を行っています。これから、言語の数も放送時間も増える予定です。

山崎 それはいいですね。保存活動の大事な柱になると思いますよ。他には何か行われていますか?

ソン 言語をデジタル化して保存する少数民族言語音声(おんせい)図書館が5年前に設立されました。

山崎 文字の代わりに音で保存するんですね。デジタル保存だと半永久的でいいですね。

ソン そうです。先月、ハノイで、その図書館を紹介するセミナーが行われました。ハノイ国家大学の少数民族発展研究センターに設立された図書館なんですが、少数民族の言語については1981年から調査が行われているんです。

山崎 へえー。35年も前からなんですね。ずいぶん前から、取り組みが行われてきたんですね。

ソン はい。この35年間、ベトナムと外国の学者や研究者ががんばってきました。少数民族発展研究センターは、人口の少ない民族の言語の消滅(しょうめつ)をずっと前から危惧(きぐ)していたんです。

山崎 それで1981年から、調査や研究を始めたんですね。

ソン はい。研究者たちは直接、少数民族の居住地へ出かけました。初めにも言いましたが、少数民族の人たちは山岳地帯など、不便な場所に住んでいるので、調査は大変だったそうです。

山崎 そうですよね。身軽な格好で遊びに行く訳じゃないですからね。荷物も多かったんじゃないですか?

ソン そうだったと思います。が、1980年代だとベトナムはまだ貧しかったので、録音(ろくおん)の機械などがなかったんです。研究者たちは、少数民族の人たちと話してメモするしかありませんでした。

山崎 はああ。すごい。ずっとそうやって調査が続けられたんですか?

ソン いえ、途中からフランスを始め外国の大学を協力を得て、研究は順調に進められました。技術が進んだことによって、収録した音声の分析や保存も前より簡単になりました。そして、5年前に音声図書館が作られたんです。

山崎 図書館には、どれくらいのデータがあるんですか?

ソン これまでに、11の少数民族の言語を音声化してデジタル保存しました。消滅危機()にある「オドゥ」や「ルック」といった少数民族の言語も入っています。

山崎 非常に貴重なものなんじゃないですか?

ソン そうなんです。貴重なものなんですが、図書館でのデータの検索方法は簡単だそうです。簡単な操作で、11の言語の情報、例えば、その民族についてや発声、発音の特徴などがすぐにわかるということです。

少数民族の言語の保存 - ảnh 3
チャン・チ・ゾイ教授

山崎 現代の技術はすばらしいですね。図書館を設立した少数民族開発研究センター、センター長(チャン・チ・ゾイ)の話です。

(テープ)

「この音声図書館は、各言語や民謡などもデジタル化して保存しています。音声ファイルで保存しているので、簡単に使えます。研究者たちにとって貴重な資料の提供源となっています。民族の言語と文化の保存にも役立つと思います。」

山崎 図書館に保存されている11の言語の中には、モン族の言葉もあるそうです。モン族の人口は110万人ということで、少数民族の中でも多い方なんじゃないですか?

ソン そうなんですが、自分の言語がよくできないモン族の若者が増えつつあるそうなんです。ホアビン省に住むモン族のある男性は、教室を開いてモン語の普及に取り組んでいます。

山崎 いいことですね。教科書などはあるんですか?

ソン モン語は文字はあるんですが、学習用の教科書や資料などの用意は簡単ではないということです。

山崎 それぞれの家族や家庭で伝えられてきた言葉ですもんね。学ぶという趣旨の資料はなさそうですね。そこで、この音声図書館が大活躍ですね。

ソン そうなんです。少数民族言語音声図書館の公開によって、学習教材として使える豊富な資料を簡単に手に入れられるようになったんです。

山崎 教室を開いている男性(スン・ア・チェン)の話です。

(テープ)

「モン族ではないのに、モン語を話したり、上手に書いたりできる人がいます。研究者や近隣の住民などです。それを見て、モン語教室を開くことにしました。資料の準備が難しかったですが、図書館にはいろいろあって、モン語の普及に大いに役立ちます。助かります。」

山崎 これから、音声図書館には他の少数民族の言葉の保存も進められていくでしょうし、それは言語の保存だけでなくて、少数民族の文化の保存にもつながりますね。では、おしまいに一曲お送りしましょう。

(曲)

「~」をお送りしました。

今日のハノイ便りは、少数民族の言語の保存活動についてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。


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