山崎 こんにちは。山崎千佳子です。
ソン こんにちは。ソンです。
山崎 1月も10日経って、日本ではお正月の雰囲気も落ち着いてきた頃でしょうか。旧正月を祝うベトナムは、これから年末に向かって行きますね。
ソン そうですね。でも、ベトナムでも今、新年を迎えて盛り上がっているところがありますよ。
山崎 本当ですか?どこでしょう?
ソン 少数民族モン族の居住地です。
山崎 モン族。サパの辺りですか?
ソン サパもそうですね。モン族は、主に北部の山岳地帯や北中部のタインホア省、中部ゲアン省、中部高原地帯のタイグエン地方の海抜1千メートル前後の山に住んでいます。
山崎 サパだけじゃないんですね。いろんなところに住んでいるんですね。
ソン はい。2009年の国勢調査によりますと、モン族の人口は110万人で、ベトナムで最も多い少数民族の一つなんです。今日のハノイ便りは、モン族の正月についてお伝えします。
山崎 今がちょうどモン族のお正月なんですか?
ソン そうです。旧暦の11月26日からということで、今年は1月5日がモン族の元日でした。
山崎 どうして旧暦の11月26日なんでしょう?ちょっと中途半端な日に感じるんですが。
ソン 稲作や畑仕事などの農作業が11月に終わるんです。モン族の人々にとって正月は、1年間の苦労をねぎらう休みの時になります。
山崎 お正月以外は1年間ずっと働くんですか?
ソン いえ、もちろん農閑期はありますが、1年で1番長く休めるのが、正月の時期なんです。この10日間は何もせずに、のんびり過ごすということです。
山崎 なるほど。ベトナム最北端のハザン省に住むモン族の男性(トー・ミー・ターさん)の話です。
(テープ)
「正月は親族や友達と遊びに行くぐらいですね。1年間働いたので、休むんです。正月の10日前、旧暦の11月20日頃には、正月用品や新しい服を準備します。正月はみんな、新しい服を着るんです。休みの間の家畜の餌も用意しました。」
(テープ・正月前の市場の様子)
山崎 これは、モン族の人たちで賑わうお正月前の市場の様子ということです。多くの人で、立つところもないほどの賑いだったということですね。
ソン はい。モン族の人々は正月用品として、服や食料品をたくさん買い込みます。食料品は豚肉や塩、砂糖などです。普段は節約して質素な生活を送っているということで、正月はいろいろ用意して楽しまなければならないと考えるんです。
山崎 服を新調するというのは、昔の日本もそうだったと思います。お正月は着物を着たり、新しいちょっといい服で出かけるといったりです。
ソン モン族の人たちも、正月は、どうしても新しい服を着なければなりません。そうしないと、新しい年に良いことがないというんですね。
山崎 気分的なものではないんですね。意味があるんですね。衣料品店店主(スン・ミー・トゥさん)の話です。
(テープ)
「普段は一日に大体100着の売り上げがありますが、正月前は200着ぐらい用意しないとだめですね。一人当たり、正月用の服を2つぐらい買うんです。みんな、正月には派手で新しい服を着たいんです。お気に入りの物を見つけるまで、何回も試着するお客さんも結構います。こちらも新しいデザインや様々な布を用意しなければなりません。」
山崎 お正月前の売り上げは、いつもの2倍ということなんですね。はりきってお正月を迎える感じが伝わります。モン族のお正月は人間だけが休む期間ではないということですが。
ソン はい。生活に使う道具や農具、家具も休ませるんだそうです。正月前に大掃除をして、道具や家具をきれいにした後、封印する習慣があります。
山崎 封印。どんなふうにするんですか?
ソン モン族の人が説明してくれています。
山崎 はい、聞いてみましょう。
(テープ)
「農作業に使うすきやくわ、シャベルなどは一年間がんばってくれたので、正月には休ませます。これは、一緒に働いてくれた道具を大切にするということなんです。大晦日にすべてに自分のサインをした紙を張って封印します。バイクも封印しました。自分が休む時は、道具も休むのが当たり前です。バイクだったら、3、4日ぐらい休ませます。」
山崎 これはおもしろいですね。物を大事にしているんですね。そして、お正月前にたくさんの食料品を買い込むというモン族の正月料理、おせち料理は何でしょう?
ソン はい。バインザイという餅、トウモロコシの地酒、鶏の丸焼きです。祭壇にあげるお供え物でもあります。自分たちで栽培、飼育したものを使って作ったもので、幸せで豊かな生活への願いを表しています。
山崎 農業に携わる人たちですから、やはりそれぞれの健康や豊作を祈るんでしょうね。
ソン そうです。そして、元旦(がんたん)にやるのが、飼育小屋へ行って、もうこの世に存在しない牛や豚、鶏といった家畜の魂を正月の祝いの席に招待することなんです。
山崎 へえ。これはまた珍しい風習ですね。お世話になった物への感謝を忘れないということなんでしょうね。モン族の男性(トー・ミー・スンさん)の話です。
(テープ)
「新年が来たので、どこかに行っている家畜たちの魂を正月の食事に招待します。この食事は、作りたてのえさでなければなりません。」
山崎 作りたてというのも、気がきいているというか、思いがこもっていますね。逆に、お正月にしてはいけないことはありますか?
ソン はい。モン族の正月3ヶ日には、知らない人が家に入ることや野菜を食べることなどはタブーとされています。また、モン族の住居は玄関と通用口の2つの入り口があるんですが、正月には、玄関からの出入りは禁止されています。ドアの神を祀るところだからです。
山崎 というと、新年が始まって3日間は、通用口だけ使うんですか?
ソン いえ、親族や知り合いが来る時には、玄関を使って大丈夫です。正月に、親族や知り合いが沢山訪れれば訪れるほど、その年はより多くの幸運に恵まれるとモン族では考えられているんです。
山崎 なるほど。それぞれの民族で、お正月に対する様々な考えや習慣がありますね。生き物でない道具なども休ませるというのが、特に印象に残りました。では、おしまいに一曲お送りしましょう。「~」です。
(曲)
「~」をお送りしました。
今日のハノイ便りは、モン族のお正月についてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。