ベトナム南部各地に住む人々にとって、旧正月テトはまず、先祖と亡くなった人の為のものです。そのため、テトが来る前に、お墓参りをして先祖のお墓を手入れし、ご先祖をテトに招待する習慣があります。また、先祖が家族と一緒にテトを楽しむために、大晦日に先祖を出迎える儀式も大切にされています。この習慣は南部の人々の精神生活面で重要な意味があり、過去と現在とのつながりです。
旧暦の12月に入ると、南部各地の墓地では、お墓参りする人の姿がよく見かけられます。家族全員が一緒にお墓参りすることもあれば、村人全員が一緒に村の墓地を手入れすることもあります。自分の家族のお墓はもちろん、周りに手入れされていないお墓があれば、草むしりをしたり、線香をあげたりします。テト前のお墓参りは先祖をテトに招待する習慣の最初の儀式です。伝統文化の研究者フイン・ゴック・チャんさんは次のように語りました。
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「儒教では、これは先祖の恩に報いるチャンスで、「源」を思い出し、「水を飲むとき源を想う」と「親孝行」という道徳的な基準を示します。先祖があって、自分がいるわけです。そして、家族の伝統を思い出し、子どもにその伝統を教えるチャンスでもあり、子どもにその伝統を守って欲しいという希望でもあります。」
テトのとき先祖を呼びよせることは家族にとって年で最も重要な行事の一つです。その一年間にできたこととできなかったこと、悲しかったこと・嬉しかったこと、そして、新年の計画を先祖に知らせるわけです。また、テトを楽しむのはまずご先祖で、その次は生きている人であるという考えがあります。伝統文化の研究者チュオン・ゴック・トゥオンさんは次のように話しています。
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「テトを楽しむのは「テトを食べる」といいます。なぜかというと、生きている人は、テトを楽しみながら、新年の3日間連続で先祖に食べ物や果物をお供えします。自分はテトを楽しみながら、先祖もテトにお腹がいっぱいでなければならないと考えるからです。」
こうした考えから、新年の祭壇の準備はとても大切にされています。大晦日の早朝から、家族全員が集まってテトの準備をします。女性たちは、料理を作ったり、祭壇に置く供物を用意します。男性たちは、家を掃除したり、礼拝用具を用意したりします。大晦日の午後、準備作業が終わった後、家族全員は服装を整えて、ご先祖を出迎える儀式を行います。縁起物を意味する五色の果物を美しく並べて飾る大きなお皿、そして、おこわ、お米、塩、2本のお酒のカップ、お茶などは、自分の先祖を含むその地の開墾者の魂に拝むために、家の入り口に置かれます。
祭壇に置かれる供物は、「トー」や「イン」などの各種のお餅、五色の果物のお皿、人としての5つの幸福を意味する5本の菊の花、繁殖と豊を意味する鶏、それから、煮込みの豚肉、ニガウリ・スープ、川魚のフライ、もやし炒めなど南部の伝統的な料理です。それらの料理は毎日変えます。ティエンザン省に住んでいるフイン・ヴァン・フンさんは次のように話しました。
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「自分の祖父、祖母は亡くなってしまいましたが、テトになると、迎えて来て、まだ生きているように、十分なご飯を供えます。礼拝用具も十分に用意して拝みます。1日に3回拝む家族もあります。テトの3日間、家族が食べる料理をご先祖に供えますが、平日よりちょっと贅沢にしますね。」
南部の人々にとって、ご先祖を神のように扱い、テトにご招待しなければなりません。ご先祖は、家族の人たちが伝統と道徳を守っているかどうか見極めるとともに、家族に幸運や平安を与えると考えられているからです。