(VOVWORLD) - ベトナム中部高原地帯テイグエン地方に居住している少数民族エデ族の儀式に欠かせないものとして「クパン」(Kpan)という椅子が挙げられます。クパンはお金持ちだけが所有するもので、「権力の椅子」とも呼ばれています。
エデ族の権力の椅子「クパン」 |
クパンは、一本の大きな木からそのまま使用するもので、木によってその長さは5メートルから15メートルで、幅は70センチから90センチ、そして、板の厚さは8センチです。クパンの両サイドは上の方へちょっと反りあげるので、クパンは細長い船のような形をしています。しかし、クパンそのものではなく、クパンを造る過程は面白いです。
権力の椅子「クパン」を作るためには、7人の男性が1週間から2週間ぐらいで苦労しなければなりません。クパンの所有者になる人は、これらの男性に食事を用意するだけでなく、村人にご馳走を振舞うとともに、いろいろな儀式を行わなければなりません。
まずはクパンを造るための木材を探して切る儀式です。どこで木を探すのか、そして、どのように木を切るのかについてその所有者の奥さんの家族と相談しなければならないという習慣があります。いい木を見つけた後、その木皮をちょっととって村へ持ち帰って、神様に、木を切る許可を申し込む儀式を行います。そして、いい日を選んで森へ木を切りに行きます。村で葬儀がある日はいい日ではありません。中部ダクラク省クムガ県トゥ村の村長アエ・ハオさんは次のように話しています。
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「木を切る前に、村の若い男性3人と若い女性3人が伝統衣装を着て、木の周りで踊ります。その後、祈祷師が儀式を行ってから、木を切り始めます。そうすると、クパンはよりきれいで丈夫になると信じられます。」
祈祷師は斧でその木を切る最初の人です。その後、選ばれた7人の男性はそれぞれ、斧で3回にわたって木を切ります。その儀式後、7人の男性は村人の協力を受けて、本格的に木を切ります。切り倒した木は枝や葉を完全に切り倒してから、所有者と祈祷師は、悪魔を追い払うため、その木を7回またぎます。
権力の椅子「クパン」が完成されると、まるで新しい家族のように、クパンを迎え入れる儀式を行います。ダクラク省クロンパッチ県プオル村の村長アエ・ヴイさんは、エデ族はクパンを人間として見なしているので、家へ迎える時、衣服や布団などを用意しなければならないと述べ、次のように話しています。
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「クパンを迎える儀式の準備として、所有者はいろいろなものを用意しなければなりません。女性たちは、布団やドレスを、男性たちはシャツや腰巻布を用意し、クパンを覆います。そして、お酒も用意します。」
所有者の親族は2つの例を作って、クパンが家に入ることを祝うため、一斉に拍手します。クパンが家に入る前に、祈祷師は、槍をクパンに刺します。これは、クパンにある悪魔を出させる儀式です。エア・ヴイ村長の話です。
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「家に入る前に、祈祷師は、悪魔を追い払うため、槍と盾を持って踊ります。祈祷師が踊る時、キパとかディンブォトとかの楽器が奏でられますが、ディンナムという楽器を使ってはいけません。その後、クパンは高床式の家の中へ運ばれます。クパンを迎える儀式のお供物として、所有者は水牛2頭、豚1頭、そして、お酒を用意しなければなりません。」
クパンは家の中央の部屋の西方の壁に沿って置かれます。最初は、誰もこの椅子に座ってはいけません。祈祷師は主勇者の手を握って、3回クパンの上に立ちます。これは、その所有者がこれからクパンの所有者になることを意味します。これにより、他の人はクパンに座れるようになります。その後、祈祷師は、クパンの所有者を神様に報告する儀式を行います。先ほどのアエ・ハオ村長は次のように話しています。
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「祈祷師は、山の神、水の神、木の神などすべての神様の名前を呼びます。そして、先祖の魂も招待します。祈祷師は、村全体、並びに、所有者の豊作や健康などを祈ります。クパンを迎える儀式に所有者の親族が参加しなければ、その親族は不運に遭うとされます。」
エデ族の考えでは、クパンは友情のシンボルで、クパンに座ると、すべての反目や階級的格差などが消え、友情しか残らないということです。