エデ族の叙事詩は農作文明により生み出されたものです。それは韻を踏んだ長い物語であり、身ぶり手ぶりのアクションを加えて表現されます。エデ族の叙事詩としてはダムサンやシンニャがよく知られています。「ダムサン」という叙事詩は中部高原地帯に住むエデ族の人々の作品であり、部族に伝える古い規則に反対し、撤廃を求めた若い男性ダムサンの闘いを物語ります。ダムサンは亡くなった祖父の二人の妻との結婚を義務付けられることを拒否して、エデ族の母系制に逆行した英雄とされています。他方、「シンニャ」という叙事詩は、テイグエン地方の英雄が悪人と戦って、集落の平穏な生活と幸福を守った物語りです。現在、これらの叙事詩は大学で教育されています。研究者リンガ・ニエクダムさんは次のように語りました。
(テープ)
「叙事詩は農民によって創作された大昔からの長い小説です。数千ページに及ぶ、数百人が登場する叙事詩もあります。また、文章は韻を踏んでいるので、メロディーにのせて語られます。こうした作品を通じて、エデ族の集落の様子が再現され、あらゆる風俗習慣が披露されます。」
叙事詩の語り手
エデ族の叙事詩のほとんどが口承あるいは文書で世代から世代へと伝えられてきました。1日か2日で語られる作品もありますが、4~5日かかる作品もあります。これは語り手の想像力によって決められます。それで、叙事詩はハトカン(hat khan)の形、つまり、メロディー付けで語られることもあります。さきほどの研究者リンガ・ニエクダムさんは次のように明らかにしています。
(テープ)
「昔、叙事詩にメロディーをつけて語ることはエデ族をはじめ、テイグエン地方に住む各少数民族の無形文化財を伝承する唯一の手段でした。叙事詩は雨の日や収穫後、行われる祭りなどで上演されました。また、収穫中でも農民向けに叙事詩が語られてきました。」
叙事詩の語り手は尊重されています。というのは、エデ族の信仰では語り手は神から特別な才能を持つ者とされているからです。彼らは生きた宝物と見なされ、創作者であり、演者であり、評論家として活躍する総合性を持つタレントの素質に恵まれた芸人であると考えられています。また、彼らはエデ族の豊富な叙事詩の一翼を担う者となっています。
エデ族をはじめ、テイグエン地方の叙事詩の保存を目指し、2007年から文化スポーツ観光省は叙事詩の収集を進め、デジタル化を計画しています。また、エデ族が住んでいる各地方の文化部門も叙事詩33種類を統計するとともに、叙事詩語りに条件を作りため、民間祭りの復活に力を入れています。こうした努力により、叙事詩は永久に存在できるでしょう。