ゾイ寺の正門
ベトナム南部メコンデルタには、クメール族の寺院が大小合わせて600カ所ありますが、その中で、一番有名なのはソクチャン省にあるゾイというお寺でしょう。16世紀に建てられたこのお寺はクメール語で「セレイ・テチョ・マハチュプ」という正式な名前を持っていますが、境内に約100万のコウモリが生息していることから、コウモリを意味する「ゾイ」の愛称でつまい「コウモリ寺」とよく呼ばれています。
3ヘクタールの敷地にあるこのお寺は緑が多くて、境内(けいだい)が美しいお寺の一つです。それらの木の枝にはコウモリがたくさんぶらさかっているという風景はゾイ寺の最大の特徴です。また、コウモリは境内の木の実も全く食べないし、境内の外に伸ばした枝にも全く降りて止まらないというのは事実です。そういうことがゾイ寺の名を作り出しています。
境内の木に生息しているコウモリ
また、ゾイ寺はクメール族の寺院の伝統的な建築を持っており、建築的には価値が大きいと評されています。ホーチミン市に本社がある旅行会社のホアン・ヴァン・ベトさんは次のように話しています。
(テープ)
「ゾイ寺の建築を外から見ると、本殿を含む建物は周辺の自然と調和が取れているので、癒されます。お寺に入ると、心が和らぎ、気持ちがよくなります。」
ゾイ寺は輝きのある黄色で、遠いところからでも目立ちます。寺の屋根には、ナーガという蛇の彫刻が巧みに施されています。屋根を支える柱には、ケムナルという天女の彫刻が刻まれており、訪れる人の目を奪います。そして、本殿にはお釈迦様の像しかありません。先ほどのベトさんは、これはクメール族のお寺の特徴であると語り、次のように話しました。
(テープ)
「クメール人のお寺は本殿が一番重要なところです。南方系仏教なので、お釈迦様しか祀りません。それに対して、ベトナムにある他の民族のお寺では、お釈迦様以外、仏や観音様も祀ります。これは、クメール族のお寺と他の民族のお寺を区別するときの特徴です。」
本殿
本殿の壁にはお釈迦様の生涯を物語る28の絵が書いてあります。また、クメール文化ならではの模様や彫刻も豊富です。本殿の周りには、お寺のお坊さんの遺骨を入れた塔がたくさんあります。クメール人は、塔の頂上は神が住んでいる神聖な山の頂上であると考えます。
ゾイ寺は、地元のクメール人にとって宗教施設であるだけでなく、文芸やスポーツなどが行われる公共の場としての集会所でもあり、若者にクメール語と文化を教える学校でもあります。地元のクメール人の一人チャン・ヴァン・ナムさんは次のように話しました。
(テープ)
「毎朝、お寺へ線香をあげに行っています。また、クメール人のお正月に、村人がお寺に集まっておせち料理を作り、亡くなった人を思い出します。また、中秋節やドンタ祭りなどの時、家族で3日間礼拝儀式を行ってから、お坊さんに頼んでお寺で礼拝儀式を催していただきます。」
こうしたゾイ寺は近年、メコンデルタ地域を訪れる国内外の観光客にとって、一度は足を運ぶべき有名な観光スポットとなっています。