ベトナム北部山岳地帯に住む少数民族ザイ族は子どもを大事にしていて、赤ん坊が生まれるはその家族にとって大喜びだと考えられています。その考えは名付けの儀式にも反映されます。
ザイ族の習慣では、赤ん坊は生まれてから1ヶ月になると、名づけられますが、丸々1ヶ月では円満すぎて、これ以上発達はしないという意味になってしまいます。ですからこそ、命名の儀式は、赤ん坊が1ヶ月になる日の前か後に行なわれます。
ザイ族は「男尊女卑」という考えをあまりしませんが、長男と長女の命名儀式は次長と次女の儀式より大きく催されることが一般的です。ラオカイ市に住むサン・ア・ソンさんは次のように語りました。(テープ)
「長男と長女の場合、生まれてから32日または33日経て命名儀式を行なうのは一般的です。もし、都合が良くないかその日が良くなければ、別のいい日を選んで名づけるのは大丈夫ですが、父方と母方の親族の大勢を招待し、かなり大きく催します。」
ラオカイ省のザイ族の女性
ザイ族の命名儀式は、必ずしもシャーマンが必要というわけではなく、ほかの少数民族より簡単です。儀式で使われる供え物は豚肉、鶏、アヒル、線香、花などです。供え物の準備ができたら、本格的な儀式が始まります。最初、父方の祖父母かおばさんが赤ん坊を祭壇の前で抱いて先祖に紹介します。
ザイ族の文化を専門とする研究者サン・チャンさんは次のように話しました。
(テープ)
「命名儀式の食事会で皆が食べている時、赤ん坊の家族はお盆を出します。そのお盆の上にはお酒のカップ8個、線香、茶碗の中にコメを入れて卵を縦に立てます。赤ん坊の親たちはそのお盆をお年寄りの席に持ってゆき、赤ん坊の名づけを頼みます。
一番年上のお年よりが名づけをしてくれます。名づけた後、そのお年寄りは数粒の米を卵の上に落とします。米が1粒でも卵に付けば、その名前が認められたことになりますが、米が卵に付かなければ、名づけの頼みはほかのお年寄りに代わります。それは米が卵に付くまで、続けられます。」
赤ん坊に名付ける際、父方と母方の3世代以内の親族の名前が同じにならないように注意しなければなりません。
赤ん坊に名付けられた後、親族の人々は赤ん坊に腕輪やお菓子などのプレゼントをします。ザイ族の赤ん坊の命名儀式には母方の親族の参加が不可欠です。チャンさんはこの習慣について次のように説明します。
(テープ)
「その日、母方の親族一行が行かなければなりません。母方の親族はおむつと抱っこひもをセットにしてプレゼントします。プレゼントをする時、母方の親族は、田んぼを耕す段階から縫い上げるまで抱っこひもを作る過程全部を内容とする歌を歌います。
また、たくさん食べて早く大きくなって元気で育つことを祈るのも歌の内容になります。父方の親族は掛け合いで歌を歌って母方の親族に謝礼します。」
赤ん坊が長男か長女である場合、赤ん坊に命名された時点で、その親と祖父母はその名前に従って呼ばれます。サン・ア・ソンさんは次のように語りました。
(テープ)
「まだ子供を生んでいない夫婦は生まれた時の名前で呼ばれますが、子供を生んで名付けを終えると、その夫婦は子供の名前を中心に呼ばれます。例えば、Aさんの子供がBならば、Bのお父さん、Bのお母さんと呼ばれることになります。祖父母も孫の名前に従って呼ばれます。」
ザイ族の人々は、子供と孫の名前を中心にして呼ばれることを誇りに思っていますので、本来の個人の名前で呼ばれると、気分を害します。ザイ族の考えでは、子供の名前にしたがって呼ばれることは我が家の代々の継承を意味するのです。
こうしたザイ族の名付けの習慣は現在でも、昔と変わりはないと言われており、これからも守られてゆくことでしょう。