ティ族の考えでは人間が生まれてから死ぬまで、4つの重要な通過儀礼を済ませなければなりません。生まれて1ヶ月目の儀式(マニェット儀式)、結婚式、新居への引越しを祝う儀式、そして葬式です。その中で、マニェット儀式は人生で初めての通過儀礼であることから重要な意義があり、周到に行われます。
マニェットとはティ語で「悪い」という意味です。この儀式で、祈祷師や家族内の威厳のある人が新生児に名前をつけます。悪い名前をつけた方が、子育てが楽で、神様に嫌われないとされています。また、マニェット儀式は母子を保護するバム(Ba mu)という神や、祖先の恩に報いるためのものであることから盛大に行われます。食糧・食品や御馳走の準備、祈祷師や親戚、隣人の招待など行うべきことは様々です。経済的余裕がある家庭なら90人分から120人分のご馳走を用意します。北部山岳地帯バクカン省、バクカン町、ナリ集落に住む民間文化研究者のハ・バン・ビエン氏は次のように明らかにしました。
(テープ)
「家族によって違いますが、裕福な家庭ならば豚や鶏肉、お菓子などを用意し、数百人分のご馳走を提供します。経済的余裕がない家庭の場合、鶏1羽~2羽しか用意しません。」
一方、地方や祈祷師によって、マニェットの開催時間や儀式が異なりますが、2つの主な儀式が含まれています。第1はバムという神を供養する儀式、第2は新生児を家庭の新しい構成員として認める儀式です。バクカン省文化スポーツ観光局・遺産室のホアン・ティ・ヒエン室長は次のように語りました。
(テープ)
「祈祷師が行う神の供養には様々な儀式があり、5時間ほどかかります。この儀式は家庭の祭壇の下で行われます。その中で、最も重要なのはバムに花や供物を捧げる儀式です。」
ティ族の観念によりますと、それぞれの夫婦はバムという神から、子どもをさずかり、神に供物を捧げなければならないとしています。子どもに名前をつける命名の儀式の後、祈祷師は新生児を家族の新しい構成員として認める儀式を行います。一方、両家の親戚は新生児のため、プレゼントを用意しなければなりません。さきほどの民間文化研究者であるハ・バン・ビエン氏の話です。
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「両家の親戚はもち米や毛と足が黄色の鶏を進呈します。マニェット儀式の開催日に、祖母は赤ちゃんを抱くスリングをプレゼントします。親族の中から選ばれた人がスリングで赤ちゃんを抱き、家の中を回ります。」
赤ちゃんを抱く人に選ばれる対象者は親孝行で、生産や経営にも優れた人でなければなりません。抱かれた後の赤ちゃんは揺りカゴに寝かされ、家族の新しい構成員として正式に認められます。そして、儀式を終えた後、一家団欒で御馳走を食べるのです。誕生1ヶ月目を迎える儀式(マニェット儀式)は大昔から伝わるティ族の風習であり、人文的価値を持つとともに、ティ族コミュニティの美意識と良い付き合いを示しています。また、この儀式を通じて両家の気持ちは深まり、良い関係になるとみられています。