ベトナムの少数民族ヌン族ならではの音楽の一つは「テン」と呼ばれる信仰的な音楽です。この音楽は、文芸面での生活だけでなく、ヌン族の信仰生活も示すものなんです。
音楽「テン」を演奏している「テンおばさん」
昔、ヌン族は、説明しきれない不思議な現象があると、平穏や健康、幸運などを祈る儀式を行うことにしています。その儀式に欠かせないのが「テンおばさん」と呼ばれる女性の歌です。「テンおばさん」は、天から来た妖精で、彼女の歌は天まで響くのです。これにより、村人の祈りはその歌と一緒に神様のところに届き、現実になると考えられています。段々、その音楽「テン」は信仰的な儀式だけでなく、徐々にコミュニティの文芸的な行事でも披露されるようになりました。
(「テン」の披露)
音楽「テン」を披露する儀式が2日間にわたり行われるのが一般的です。儀式の中には、神様を呼び戻す式や、悪魔を除ける式、不運を無くす式、平穏を祈る式など様々な儀式が含まれます。音楽「テン」はこれらの儀式に欠かせない存在です。その「テン」は、神様のところに祈りを届ける道のりを物語るものだと言えます。「テン」はそれぞれの式の特徴に沿って披露されるものの、全体的には調和の取れた音楽作品です。ヌン族が多数住んでいるランソン省の文化研究者ホアン・ヴァン・パオさんは次のように語りました。
(テープ)
「テンを披露するときは、「ティン」という楽器と団扇が欠かせません。最初、「テン」は信仰的儀式のためだけでしたが、1950年代ごろから、コミュニティの文芸的活動でも使われるようになりました。そのため、昔の「テン」と現代的な「テン」の2種類があります。それでも、「テン」の原理は変わりません。それは、式の特徴に沿って披露されるのです。」
子どもに「テン」を教えている
文化研究者によりますと、ヌン族の音楽「テン」は、歌、踊り、楽器の演奏という3つの要素の調和が取れた芸術へと発展しました。この芸術は、音楽で信仰的な生活を物語るもので、信仰的にも芸術的にも価値が大きいと評されています。
(「テン」の披露)
現在でも、ヌン族の居住地に足を運ぶとべば、「テン」のメロディを聴くことが出来ます。その音楽は、ヌン族の生活や考え、習慣、信仰を示す貴重な文化の一つで、大切にされています。