中部高原地帯テイグエン地方に住む各少数民族の文化について墓に置かれる像の彫刻を抜きに語ることはできないでしょう。これらの像はたんに彫刻品であるだけでなく、生涯に関する観念を表すものでもあります。
バナ族は大昔から自然とよく調和した生活を送っていることから、人間は森から生まれ、亡くなると森に帰ると考えられてきました。また、死は生涯に終止符を打つものではなく、死者は別天地に行くとされています。こうした観念を基に「ボーマ(bo ma)」という儀式、つまり死者との永遠の別れの式が誕生しました。この儀式を行うことで、生きている人と死者との繋がりが断ち切られ、死者は別世界に行けるのです。ボーマの儀式ではお酒を飲んだり、銅のドラとシンバルを鳴らしたり、歌と舞いを披露したりして奉納することもあります。また、墓に像が埋葬されるのは欠かせない儀式です。これは死んだ人に対する生きている人の気持を示すとされています。長年にわたり、テイグエン地方の文化芸術を研究している画家ディン・ティエン・ハイさんは次のように語りました。
(テープ)
「死んだ人はアクティブな状態から非アクティブ状態へ変化すると思われています。昔の観念に従って、家の財産の一部は死んだ人に割り当てられます。しかし、この世と別世界は逆なので、死んだ人に捧げられる物に穴をあける必要があります。また、死んだ人のために美しいお墓をつくるため、像が飾り付けられます。ボーマ儀式が行われた後、像は永遠にお墓に置かれるのです。」
像を彫刻するため、親族は直径30センチ以上の木を選びます。職人や住民は一定のサイズに従うことなく、心こめて、生涯に関する自分の観念を表すような像を彫ります。ですから、墓に置かれる像は多様で、魂があるようにみえるのです。
像は鳥、動物、日用品から人の形など様々です。最も普及しているのは座していて、遠くを見る人の形をした像です。この像は毎日、墓のそばに座る親族の姿を象徴するものとされています。一方で、太鼓を叩く人や妊娠している女性、コメを砕く人などの形をしたのもあります。こうした像を見て、人生に関するバナ族の哲理を理解するようになるでしょう。さきほどの画家ディン・ティエン・ハイさんの話です。
(テープ)
「現在、彫刻家たちは美しい像を作れますが、お墓に置かれるそんな生き生きした彫像を作れるわけではありません。お墓の像には信仰的要素も含まれているのです。彫り物師は自分の気持ちを像に込めるからです。」
墓の像を鑑賞すると、その民族や地域の風俗習慣に少し触れた感じがします。ダクラク省の民族博物館のルオン・タイン・ソン館長は次のように語りました。
(テープ)
「北部と南中部高原地帯の住民はお墓に入れる像の彫刻を重視しています。死んだ人のために美しい墓づくりに力を尽くします。北中部高原地帯と南中部高原地帯の像には相違点があります。北部の像は主に人の形をしたものですが、南は人間と親しい関係がある動物の形をした像です。」
バナ族の墓の像は美しい作品であり、住民たちの創造性、審美観、生活観念を示すものでもあります。これらの像はベトナム民族文化の一翼を担うことでしょう。