ベトナム北西部に居住している少数民族ハニー族は、水と火を大切にしています。水は生活の源で、火は生活を維持する力だと考えているのです。そのため、ハニー族の家の中には、必ず囲炉りがあります。囲炉りは家族の暮らしを守ってくれる竈神の家で、家族の生活で重要な地位を占めています。囲炉りの中には石がひとつ置かれてあります。これは神聖な石で、竈神の具現とされています。
ハニー族は家ができたら、始めにやらなければならないこととして、火の神様を家に迎えます。火は石から生まれたと考えられているので、火の神様を迎えるため、まだ人間が足を踏み入れたことがない山奥に石を取りに行きます。この石は火の神様のほか、竈神と土地の神様のお住まいとして囲炉りの中に置きます。これらの神様は囲炉りの火が消えないようにしており、家族の幸福を守ってくれると考えられています。北西部ラオカイ省バッサット県イティ村に住むリ・ゾー・コさんは次のように話しました。
(テープ)
「ハニー族の囲炉りには必ず石があることです。この石は神を象徴するものです。お正月などには、この石を拝みます。竈神や土地の神様を拝むという意味です。」
ハニー族のイティ村
その考えで、新しい家ができると、神様の具現とされる石を見つけた後、神様を迎える儀式を行います。そして、お正月や祝日などに、お餅やお酒を竈神にお供えします。
ハニー族が日常生活のほとんどを過ごす所は囲炉りの周りです。囲炉りは、煮たり焼いたりおかずを作るところであり、神聖な空間でもあります。そのため、囲炉りはタブーがたくさんあります。例えば、石に足をのせることや、石を棒で叩くことなどが禁止されます。ハニー族は母系社会なので、囲炉りに関わるすべての管理は女性です。囲炉りを見るだけで、その家の女性の性格がわかるとよく言われています。
毎朝起きて、女性が最初にやるのは囲炉りに火をつけてお湯を沸かすことです。これは、神様のおかげで家族の面倒をよく見ているという意味です。お正月や祝日には、囲炉りに火をつけるのは神様と先祖の恩に報いるというい意味があります。こうした囲炉りの周辺は居間でもありますが、神聖な空間なので、望まない客を入らせないのが一般的です。ラオカイ省文化情報局のチャン・フー・ソンさんは次のように語りました。
(テープ)
「囲炉りはハニー族の生活の中で重要な役割を果たしており、囲炉りの石は竈神の具現です。かつて、石の面倒を見るのは女性だけで、この石は女性的です。年末年始などに、家族の女性は、竈神にお酒や、お茶、お菓子などをお供えします。奥さんが亡くなった家の場合、娘が結婚して遠くにいても、その日は実家に戻りその儀式を行うべきです。」
大晦日の夜に、家族は全員が、囲炉りの周りに座って家族団らんを楽しむ習慣があります。その時、おじいさんやお父さんは子孫に家族の伝統を物語り、先祖を思い出させます。現代生活の影響で、ハニー族の生活は変わりつつありますが、竈神を祀る信仰はこの民族の独特な文化の一つとして今なおしっかり保たれています。