ムオン族の「この世の始まり(De dat de nuoc)」という独特な叙事詩は後世の各世代に向けてご先祖の生活ぶりや風俗習慣を語るものです。また、これはムオン族の無形の百科事典としても見なされており、ムオン族の人々の想像によって、民族の歴史が再現されています。
民族学博物館で再現されたムオン族の葬式
「この世の始まり」という叙事詩は大作であり、天と地の形成に関する複数の神話が含まれています。この作品は神話と叙事詩の2つの民間文学の特徴を結合させ、韻を踏んた文章で世界の始まりやムオン族の発展ぶりを語ります。この叙事詩はムオン族の葬儀で、祈祷師により語られます。亡くなった人は別世界へ逝く前に、民族の歴史や風俗習慣について披露されるという意味があります。ベトナムの文化信仰研究保存センターのセンター長ゴ・ドク・テイン教授は次のように語りました。
(テープ)
「この叙事詩は世界の始まりや人間の誕生を物語ります。また、ムオン族のルーツを解明し、ムオン族の歴史の一部を反映するものです。ムオン族の葬儀で、祈祷師が叙事詩を語る目的は、死んだ人との別れ告別に際し、人間の誕生や存在などを披露することにあります。その意味でこの叙事詩は生の叙事詩と呼ばれ、人間の生活にとって有意義なものだとされています。」
大昔から、ムオン族は人間と動植物のルーツ、自然、神秘的な現象の究明に力を尽くしてきました。彼らの考えでは土地や川などは神が誕生させたのではなく、自然的に発生したとしています。さきほどのゴ・ドク・ティン教授は次のように明らかにしました。
(テープ)
「これは口伝に伝承する口承の叙事詩です。様々な出来事が取り上げられます。また、チュドンという神聖な樹木が出現し、この世の始まりと人間の誕生を物語ります。一方、各民族が卵から生まれたことは説明されました。これはムオン族の豊かな想像力を表しています。世代から世代へと伝えられ、周到に保存されています。」
このように語ったティン教授はまた、各発展段階を経て、「この世の始まり」という叙事詩に似ている様々な異本が生じた明らかにし、次のように語りました。
(テープ)
「様々な異本があり、最短の異本は8千の文章、最長のものは1万6千文章があります。また、少なくとも7、8の異本があります。異本は地方や住民の特徴によって相違のところがありますが、原本に対して同一の書です。ムオン族は叙事詩を誇りと思っています。彼らの叙事詩には貴族階級や庶民などが登場します。」
「この世の始まり」という叙事詩は大きな文学作品であり、民間文学、哲学、歴史学、民俗学を網羅するものであるといえます。また、ムオン族の独特な民族文芸の特徴を反映した上で、ムオン族の知恵と精神の美しさを示すとみられています。