ベトナム中南部に住む少数民族ラグライ族の叙事詩は精神生活では、欠かせない存在で、この民族の伝統文化の保存に重要な役割を果たしています。
ベトナム中南部と中部高原地帯テイグエン地方に住む多くの少数民族と同じように、ラグライ族は豊富な叙事詩を誇りに思っています。カインホア省カインソン県のトハップ谷は、叙事詩を覚えて語れる人が多いです。その中で、ラグライ族の一人でこの民族の文化を研究しているマウ・クォック・ティエンさんは、叙事詩の保存に取り組んでいる事で有名です。
ラグライ族の祭り
ティエンさんによりますと、ラグライ族の叙事詩は長い歴史があり、祭りの夜によく語られるものです。一般的には英雄叙事詩が多くて、自然災害や侵略から平穏な生活を守ってもらいたいという願望を示すものです。たとえば、アマ・チ・マジャという叙事詩は、チ・マジャという優秀な男性が猛獣を支配して村人の平穏な生活を守ると共に、村人を指導して侵略者を消滅した物語です。
また、他の叙事詩では、アウォイ・ナイ・ティローという女性が森の神や海の神と戦って村人を守ったという内容です。ティエンさんは次のように話しました。
(テープ)
「ラグライ族の叙事詩はかなりの長さを持つものです。ラグライ族は文字を持たないので、口承で代々語り伝えられています。これは、他の民族の叙事詩と違う点です。」
ラグライ族の叙事詩は決まった動作と共に語られるわけではありません。口承者の創意工夫による動作なので、同じ叙事詩でも語るたびに、違う印象を受けることです。また、叙事詩と共に、民謡をよく歌う習慣があります。よく歌われる民謡は、畑へ向きながら、歌う子守唄「シリ」や、祭りなどの歌「アドー」などです。
孫に叙事詩を語っているおじいさん
(叙事詩を語る声)
お聴きいただいたのはカト・ティ・シンさんによるラグライ族の典型的な叙事詩のひとつ「ウダイ」です。シンさんは60歳を超えましたが、最後まで語るにはまるで1日かかる叙事詩「ウダイ」を覚えられています。シンさんによりますと、7、8歳ごろからお母さんに叙事詩を教えてもらいました。家は勿論、畑でも森でもお母さんの叙事詩を聞いて覚えたとしています。シンさんの話です。
(テープ)
「母が語る叙事詩を聞いて好きになって覚えました。お気に入りの叙事詩は眠れないほど全てを暗記できるまで練習しました。かつては今日の学校ではく、家などで母や父から学んで、毎日のように練習して語れました。」
ラグライ族の叙事詩を語る職人として有名なのはカト・ティ・シンさんのほか、90歳以上になるマウ・ティ・ジェンさんもいます。ジェンさんは叙事詩が語れる一番年上の人です。この人たちが年をとるにつれて、叙事詩が語れる人が少なくなっています。こうした現状を前に、地元の行政府は、シンさんやジェンさんが語る叙事詩を収録しながら、文書にしたりするなど保存作業に取り組んでいます。また、ラグライ族の若者を対象に、叙事詩を語り伝える技術を教える教室を開いています。これにより、ラグライ族の叙事詩がこれからも語り伝えられる事でしょう。