「メイドインベトナム」を「メイドインジャパン」に高める夢


これは、ベトナム系日本人実業家の夢です。彼の息子さんは2人とも父親と一緒にその夢の実現に取り組んでいます。

2012年、天皇陛下が埼玉県川口市に本部を置く株式会社メトランを訪問したことに始まります。天皇陛下は1年に1社だけ中小企業を含む3社しか行幸しないので、天皇陛下の行幸を受ける日本企業にとって最高に名誉なことです。医療機器の開発製造に従事するメトランの創業者は日本国籍を持つベトナム人チャン・ゴック・フック(日本名:新田一福)さんです。現在、代表取締役会長を務めるフックさんは「メイドインベトナム」をメイドインジャパン」のレベルに高める夢を持っており、今後ベトナムにシフトしてゆくつもりです。

日本で事業に成功

天皇陛下のご行幸を賜ったこともあって成功している実業家フックさんは、実業家としてのイメージがありません。スーツも着用せず、髪は長かったのです。話し方もゆっくりしているフックさんは、「私はもともと研究者ですから。」と述べました。

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チャン・ゴック・フック会長

1947年にベトナム中部の古都フエで生まれたフックさんはベトナム戦争中の1968年、日本へ留学しました。1974年に大学を卒業した後、医療機器を開発する会社に就職しましたが、その後1984年、埼玉県川口市で株式会社メトランを設立しました。医療機器開発メーカーとして同年、高頻度人工呼吸器ハミングバードを開発し、アメリカ国立衛生研究所主催の高頻度人工呼吸器コンペティションで優勝しました。

同社が開発した高頻度振動換気(HFO)人工呼吸器は、未熟児救命領域を支える柱ともいえる医療機器の一つと言われ、日本全国の新生児集中治療室の約90%で使用されています。また、約300台のこの人工呼吸器はベトナムを含む10カ国以上に輸出されています。ホーチミン市のツーズー産婦病院の統計によりますと、この病院がメトラン社の人工呼吸器を活用して命を救った未熟児は2011年だけで120人にのぼっているということです。

こうした成績で、メトラン社は日本とアメリカで多くの賞や表彰を受けました。フック会長は、「2012年7月に、天皇陛下のご行幸を賜ったことは弊社にとって歴史的な節目となった」と述べました。

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天皇陛下のご行幸

成功のコツ

今日の成功への道のりについて、フック会長は、この成功はまず目的を正しく定めたことにあると明らかにしました。最初は、会社を作ろうと思った時、ビジネスを最優先として利益を追求するつもりでしたが、病院で治療中の未熟児を見た瞬間、自分の生きがいは人類に奉仕しよう、そのため自分を犠牲にするという覚悟でした。フック会長は、「私の最優先はビジネスというより人類への奉仕なんです。」と語りました。

また、成功のもう一つのコツは、「どんな仕事でも得意な人は必ず成功する」という親に教えてもらったことに従うことです。生涯を人工呼吸器の開発と製造に注いだフック会長のメトラン社は子供用の人工呼吸器の開発製造部門でトップに立ったのです。こうしたコツを生かしたフックさんは、メトラン本体は研究・製造に集中し、マーケティングや販売を経験の豊かな日本の会社に委託することにしました。

フックさんによりますと、ベトナム人には成功のコツがあります。それは創造性と勤勉さです。ベトナム人はふさわしい環境にあるだけで、自分の能力を十分に発揮することができるとしています。フックさんは、「私ができるんだから、できないベトナム人はいない。私は特別なベトナム人じゃないのです。能力を発揮できるような環境だけが必要です」と語りました。

「メイドインベトナム」を向上させる

フックさんは、将来、日本では開発にしか集中しないのに対し、製造はベトナムにシフトする方針であると明らかにしました。できる限り自分の持っているものすべてをベトナムの若者に教えようとしているフックさんは、「単なるベトナムの若者を採用するわけではありません。将来、彼らを採用者ではなく、パートナーにするようにしています。」との考えを示しました。

フックさんは、ベトナムの若者に教えたいのは仕事上のスキルだけでなく、自分の思いや考え、渇望でもあると明らかにしました。「日本人はなぜこのような国を建設できたのか」という質問は、ベトナムの若者に答えてもらいたいのです。

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メトラン社の生産ライン

まもなく70歳になるフックさんは、2人の息子にこの事業を引き渡しましたが、自分のことを、「泳がないと死ぬ」という マグロに例え、仕事をしないわけではないと強調しました。人生の残り時間の課題はベトナムの若者に自分の思い、考え、経験、技術を教えることであるとしています。

フックさんの夢は、日本製の質に匹敵するベトナム製の人工呼吸器を作ることです。メトラン社のベトナム工場で製造された人工呼吸器が日本を含む多くの国に輸出されているのはこの夢が実現されていることを表わしています。

フックさんの2人の息子は、お父さんの夢の実現に向けて進めています。フックさんは、「私の息子たちがベトナムで働きたがることは私の最大の幸せだ」と嬉しそうに語りました。



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