ハノイ旧市街でただ一人の鍛冶職人

山崎  こんにちは、山崎千佳子です。 

ソン  こんにちは、ソンです。

山崎 先々週と先週は、ハノイ旧市街についてお伝えしました。これがご好評を頂きました。

ソン はい。シリーズ化というわけではありませんが、今週も旧市街に関する話題です。現在ハノイ旧市街でただ一人の鍛冶職人をご紹介します。

山崎 旧市街の通りの名前は、今でも、「豆通り」や「ビン通り」「くし通り」など、昔そこで売られていた物が通り名になっていますが、現在もそのまま同じ商品を扱っているところは少なくなっているとお伝えしました。

ソン そうですね。ハノイでは高層ビルが増えてきています。町全体の様子も変わってきています。そんな中、旧市街に百年前から続いている鍛冶屋があるんです。

山崎 老舗ですね。場所は旧市街のどこでしょう?

ソン ローレン通りです。ローレンは鍛冶屋という意味です。長さが130メートルのこの通りは、ホアンキエム湖から北西へ700メートル程のところにあります。

山崎 鍛冶屋通りということは、金属加工に携わる人が集まっていたんですね。

ソン はい。昔、ハノイ郊外にあった鍛冶職人の村からやってきた人たちがこの通りをつくりました。以前は、みんな鉄を打って金属製品を作っていましたが、現在では、機械を使っての製造や既成品の金属製品店になっています。

ハノイ旧市街でただ一人の鍛冶職人 - ảnh 1
(写真:tienphong.vn)


山崎 その中で、唯一の鍛冶職人の方ですが、まずこの音をお聴きください。

(テープ・現場の音)

ソン これはその鍛冶屋から聞こえる音です。

山崎 鉄を打っている音ですね。

ソン そうです。ハノイ旧市街唯一の鍛冶職人、グエン・フオン・フン( Nguyen Phuong Hung)さんです。フンさんは毎日、カナヅチやペンチなどで金属を打ち鍛え、様々な道具をつくっています。

山崎 こういう音を聞いたり、また実際の作業を見たりすると、人の手というのは素晴らしい道具なんだということを改めて感じますね。

ソン そうですね。フンさんは父親に教えられて、6歳の頃から鍛冶仕事の手伝いをしていました。しかし、ずっと続けていたわけではありませんでした。

山崎 このまま家の仕事を継ぐのはいやだと思ったんでしょうか?

ソン はい。運転手や工場労働者など、別の仕事をしていたそうです。35歳になって、鍛冶屋をやろうと決めたそうです。鍛冶屋はフンさんの家に代々続く職業で、それを継ぐことができるのはフンさん一人だったからです。

山崎 今はローレン通りで、フンさんだけが鍛冶屋さんなんですよね。

ソン そうなんです。昔はたくさんの鍛冶屋があって、毎日、通りのあちこちで鍛冶を打つ音が響き渡って、賑やかだったそうです。

(テープ・現場の音)

山崎 こういう音があふれていたんですね。今でもこういった昔ながらの手作業の鍛冶屋があるというのは、みんなあまり知らないかもしれませんね。

ソン でも、フンさんのことは旧市街を訪れる観光客が結構知っているんですよ。詳しくは後でお話します。

山崎 はい。ここでフンさんの話です。

(テープ)

「1995年頃、市場経済が発展し始まってから、この通りの鍛冶屋が少なくなってきました。私は、てこや斧、きりを作れる最後の職人だと思います。他の同業者は、もっと楽で稼げる仕事に転職しました。私は、この仕事が好きなのでやめません。今はこの辺の鍛冶職人は私一人です。誇りに思っています。」

山崎 仕事に誇りを持てるというのは、素晴らしいですね。ここで一曲お送りしましょう。「~」です。

「~」をお送りしました。

かつて鍛冶屋が軒を並べたこのローレン通り、今はどんな感じなんでしょう?

ソン ブティックや装飾品店なども並んでいます。昔、鍛冶屋として生計を立てていたところは、近代的な機械を使って、精度が高い金属加工を行ったりしています。

山崎 先ほどソンさんが、フンさんの鍛冶屋は観光客の注目を集めていると言っていましたが、どうしてなんでしょう?

ソン フンさんがそれについて話してくれています。

山崎 聞いてみましょう。フンさんの話です。

(テープ)

「多くの外国人観光客が旧市街で私の写真をとっていきます。旅行から帰ると、その人の友人知人に、私の写真を見せるんです。ハノイ旧市街に昔ながらの鍛冶屋がいる、と。私はビザなしで、世界中に行ったと言えるかもしれませんね。航空会社の機内誌にも、旧市街に残る唯一の鍛冶屋として載ったことがあります。ここでの最後の職人として誇りを持っています。この仕事があまり好きではないうちの子供たちには、鍛冶屋を継がなくてもいいけれど、自分や家族、そして社会のためになるような仕事をしてほしい、と話しています。」

山崎 ハノイの街全体が変化を遂げていく中で、旧市街もまた変わってきています。それでもフンさんは以前と同じように、毎日、一生懸命に鍛冶の仕事をするだけです。全て手作業という大変な仕事をあえてしているフンさんを変わり者と思う人もいるようですが、フンさんは一向に気にしません。フンさんの話です。

(テープ)

「今の世の中は、利益を考える商売をする人が多すぎます。昔からの伝統的職業に従事する人があまりいないことは残念です。伝統的手工芸の分野で人手不足になることは確実です。その時に行動しても遅いんです。」

山崎 フンさんの言う通りですね。実際、伝統を守っていっている人の言葉は重みがあります。旧市街が残る限り、少しでも多くの伝統が生き続けてほしいと思います。では、おしまいに一曲お送りしましょう。

(曲)

「~」をお送りしました。

今日のハノイ便りは、ハノイ旧市街に残る唯一の鍛冶職人をご紹介しました。それでは、今日はこのへんで。

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