山崎 こんにちは、山崎千佳子です。
ソン こんにちは、ソンです。山崎さん、ベトナムにもいろいろな民謡があるのは知っていますか?
山崎 前にハノイ便りで、ベトナム北部バクニン省の民謡クアンホーや南部のドンカータイトゥーについてお伝えしたことがありますね。これはどちらもユネスコの無形文化遺産に登録されているんですよね。
ソン そうです。今日はまた別の民謡をご紹介しましょう。ベトナム北東部に住むテイ族やヌン族が昔から歌っていた民謡、テンです。
山崎 テン?どういう意味ですか?
ソン テイ族の言葉で、天と地の「天」という意味です。
山崎 日本語と同じですね。
ソン そうですね。この民謡テンは、昔から北部山岳地帯に住むテイ族やヌン族の生活に特別な意味を持ってきたんです。
山崎 ということで、今日のハノイ便りは、民謡テンとその保存活動についてお伝えします。
(テープ)
山崎 ソンさん、これがテンなんですね。先ほど、北部山岳地帯という場所が出ましたが、具体的にはどの辺ですか?
ソン ハノイからおよそ180キロ離れたところにあるバックカン省です。ベトナム北東部にあって、北はカオバン省、東はランソン省、南はタイグエン省、西はトゥエンクアン省と接しています。
山崎 ベトナムはたくさんの省があるので、バックカン省も初めて聞く名前ですが、どんなところですか?
ソン 人口はベトナムの省の中で、最も少ないと言われています。一方で、原生林に覆われているバベー湖や洞窟など自然に恵まれています。
山崎 そして民謡のテンを含め、伝統文化も息づいているんですね。
ソン はい。テンの歌い手は村人の代表として、神様に豊作と幸福を祈ります。安定した天候を祈るテンのほかに、長生きの長寿、男女の愛、幸運などを祈るテンもあるんです。
山崎 内容も様々なんですね。祈りをささげるということは、フォーマルな場で歌われるんですか?
ソン 祭りの儀式で歌われるものもありますが、日常生活で歌われているものもありますよ。故郷への愛情や人間の美しさを讃えるものもあります。
山崎 テンは北部山岳地帯の地方で歌われているということですが、それぞれで違うんでしょうか?
ソン はい、地方によって少し違うようです。ランソン省のテンは切ないメロディー、バックカン省のテンはゆるやかなリズムといった具合です。
山崎 番組の初めに少しテンを聴いて頂きましたが、何か楽器が使われていましたね。
ソン はい。テンの伴奏には必ずティン( Tinh) という琴が使われます。ティンには伝説があるんです。この琴はひょうたんを利用して作られていますが、大昔、12本の弦のあるティンが作られました。その琴の音色は人間だけでなく、万物の心を奪ってしまったそうです。そのため、天の神様はティンの弦を12本から3本に減らしたという言い伝えです。
山崎 それだけ魅力的な音が出る琴ということなんですね。
ソン そうです。3つの弦だけでも、多くの人を引き付けるティンです。
山崎 そのティンを作る職人( Ma Van Binh) はこのように話しています。
(テープ)
「テイ族の民謡であるテンをこれからも守っていかなければなりません。私は今年66歳ですが、テンの愛好家クラブを作りました。より多くの人がテンを歌って楽しんでくれるといいと思っています。」
山崎 ここで、一曲、テンをお送りしましょう。「~」です。
(曲)
「~」をお送りしました。
山崎 バックカン省では、テンの保存活動として、多くの愛好家グループが誕生しています。グループのメンバーはお年寄りだけでなく、若者もいるそうです。文化センターでは毎年、夏になると、テンの歌謡教室が開かれているということです。
ソン バックカン省のある村の小学校ではテンが教育カリキュラムに取り入れられています。その村の出身で、芸術系の短期大学でテンを学んだ20代前半の女性( La Thi Anh)の話です。
(テープ)
「お年寄りたちの歌声でテンを知って、好きになりました。この民謡がいつまでも残るよう、保存活動に取り組んでいきます。」
ソン バックカン省の文化部門は、民謡のテンと伴奏の琴、ティンの音色を観光活性化策の一つと考えています。
山崎 先日行われた少数民族の観光祭りでは、テンとティンもイベントの重要な柱となったようです。バックカン省の民族芸能担当者( La Bao Duy)の話です。
(テープ)
「祭りでは、テンを大事な要素と捉えて、有名なテンの歌い手を選びました。各地から訪れた人たちに、バックカン省独特のテンを紹介できたと思います。」
山崎 昔から伝わるものを若い世代の人たちが「守っていこう」と言っているのは、すばらしいことですし、心強いですね。
では、おしまいに一曲お送りしましょう。「~」です。
(曲)
「~」をお送りしました。
今日のハノイ便りは、ベトナム北部山岳地帯に住む少数民族の民謡テンとその保存活動についてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。