ベトナム北部山岳地帯に居住している少数民族「赤ザオ」族は旧正月テトを楽します。先祖の恩に報いる気持ちを示すため、テトになると先祖をご招待し、一緒に楽しんでもらう習慣があります。先祖がテトを楽しんだ後、無事に別世界へ帰るために、「フア・チュオン（Phua Chuong）」と呼ばれる、先祖を見送る儀式を行います。

赤ザオ族

赤ザオ族にとって、旧正月は、1年間で一生懸命働いた後に休暇を取るチャンスであり、1年間にあった良いこと、良くないことを先祖に報告する機会でもあります。そのため、大晦日の夜、先祖を招待し、テトを一緒に楽しんでもらいます。

先祖がテトを楽しむために、テトの前に、祭壇を始め家を掃除するとともに、豚肉や鶏肉、お餅、チマキ、お酒などのお供え物を用意します。そして、テトを楽しんだ後、フア・チュオン儀式を行います。この儀式はテトが終わったという意味もあります。イエンバイ省ルックイエン県ケバン村に住むフン・ティ・チャイさんは、この儀式はいつ始まったのか、だれもがわかっていないが、赤ザオ族の重要な儀式であると述べ、次のように語りました。

（テープ）

「子供の頃、フア・チュオン儀式を知りました。いつ始まったのか知る人はいませんが、親などから、昔から伝わる伝統だと聞きました。フア・チュオンを行ってからはテト明けですから、皆は良い年になるようにという希望をもって栽培や畜産などを始めます。」

フア・チュオン儀式は、旧暦の1月3日か4日に行われるのが一般的です。この儀式のお供え物は2羽の茹でた鶏、5個のお水の杯、5個のお酒の杯、3本の線香、及び、冥器とされる紙製の祭祀用品です。佳い時間を選んで祈祷師に儀式を行ってもらいます。先ほどのフン・ティ・チャイさんの家族のフア・チュオン儀式で、祈祷師のチエウ・ティエン・ミンさんは次のようにお祈りをしました。

（テープ）

「本日はテト明けで、旧正月を一緒に楽しんでくれたご先祖の皆さんに感謝の言葉を述べさせていただきます。テト明けを機に、ちょっとしたお供え物を用意させていただいたので、受け取っていただき、家族全員が健康で、仕事がうまくいくよい1年になりますようにお祈りしたいと思います。」

その後、紙製の祭祀用品を燃やしてから、家族全員でおしゃべりながら、お供え物を食べます。こうしたフア・チュオンの儀式は、先祖を祀る信仰の一部として今もなお、大切にされています。