今年1月に外交関係を断絶したペルシャ湾岸の二大国であるイランとサウジアラビアの関係が緊張の度を増しています。収束のめどが立たないシリア内戦への対処、過激派組織(IS)「イスラム国」の掃討、原油相場の乱高下など難題山積ですが、それに加え、イスラム教徒がサウジアラビアの聖地メッカを訪れる毎年恒例の「大巡礼(ハッジ)」をめぐり、イラン政府は今年、同国民の参加を禁止するとの方針を示したのです。
大巡礼(ハッジ)(写真:premiumtimesng)
巡礼者問題 深刻に
サウジにある聖地メッカへの巡礼はイスラム教徒にとって最も重要な宗教行事で、昨年の大巡礼では、約6万人のイラン人巡礼者が聖地を訪問しました。今年9月の大巡礼に向け、両国はこれまで2回にわたり交渉しました。サウジ側の説明では、2回目の交渉は先月27日まで2日間にわたりサウジで行われましたが、最終合意に至りませんでした。
イランの巡礼担当組織は国営メディアを通じて声明を発表し、「サウジ政府が続けている妨害行為により、イランの巡礼者は今年の大巡礼への参加を拒否された」と発表し、「責任はサウジ政府にある」としました。
これに対してサウジ側では、メッカと並ぶ聖地メディナの裁判所長が、大巡礼に関する取り決めへの署名を拒否しているのはイランだと主張しています。イラン側は大巡礼を意図的に政治化しようとしていると非難しました。
イラン・サウジのギクシャクした関係
今回の巡礼者問題は両国関係の緊張につながる唯一の原因ではありません。サウジはスンニ派の大国で、シーア派の大国であるイランと歴史的に緊張関係にあります。1979年のイラン革命後に始まったイラン・イラク戦争では、サウジをはじめとする湾岸協力会議諸国は欧米とともにイランと敵対しました。
また、イラクやシリアでISが支配地域を広げた時期に、オバマ大統領はイランとの間で核協議を急加速し、イスラエルやサウジの反対を押し切り昨年夏、最終合意しました。
そして、内戦開始から5年が経過したシリアにイランが事実上の正規軍である革命防衛隊を派遣してアサド政権をてこ入れするのに対して、サウジは反体制派のスンニ派組織を支援しています。内戦終結のための和平協議は4月下旬以来中断が続き、シリアを舞台に両国の「代理戦争」が激化しています。
さらに、イランはイラク、シリアに加えイエメン内戦への介入を強める一方で弾道ミサイル開発を推進しています。同時に原油大増産に乗り出し、原油価格の急落に悩むサウジ国内でイラン脅威論が一気に高まりました。
こうした関係の歴史から見ると、イランとサウジの関係改善は近いうちに、できないはずです。中東地域の2大国の関係が緊張し続けているのは地域全体の状況に悪影響を与えることでしょう。