2016年、ベトナム東部海域(南シナ海)問題は、国際世論の注目を集めた国際問題の一つです。オランダ・ハーグの常設裁判所は2016年7月12日に、中国が独自の権利を主張する境界線「9段線」などについてフィリピンが訴えた提訴に対する判決を出したのです。この判決は、地域だけでなく、世界の秩序にも影響を与えるものであると見られています。
ハーグ常設裁判所
500ページに及ぶ判決で、常設裁判所は、中国が主張する「9段線」に国際法上の根拠はないと明らかにしました。そして、中国がベトナムのチュオンサ諸島
の七つの岩礁や浅瀬を違法に埋め立てて築いた人工島は、「島」ではないと判断しました。
この判決は、1982年国連海洋法条約に基づいてベトナム東部海域問題に関する最初の判決で、ベトナム東部海域問題の解決に道を開く重要な法的基盤となると評されています。
国際世論の支持
常設裁判所の判決は多くの国の支持を受けました。多くの国は、「海の憲法」と呼ばれている国連海洋法条約に基づいて出された判決は海上の安全保障、航行の自由、紛争の平和的解決に貢献していると評しています。この判決は国連海洋法条約を守って海の秩序を維持するための取り決めです。
判決後、ベトナム東部海域問題は当事国だけでなく、多くの国の関心事ともなっています。また、G7主要国サミットやAPECアジア太平洋経済協力会議など多くの国際会議の議題となっています。
判決後の動き
しかし、中国は判決を受け入れないと主張しています。それに加え、ベトナム東部海域で一連の軍事演習を行うとともに、人工島の建設と軍事拠点化を進めています。それは、実効支配の強化を目指すものです。
中国が判決を無視して現状変更の動きを続ければ、国際的摩擦は避けられません。「法の支配」に基づく秩序維持のためアメリカも黙っていないからです。実際、アメリカ軍は、中国が違法に建てている人工島から12海里内にも軍艦を派遣する「航行の自由」作戦を展開しています。これは、ベトナム東部海域の緊張エスカレートにつながっています。
国連海洋法条約は、強制力がなく、判決に従わない国を従わせる手段を持ちません。しかし、判決に従わない身勝手が許されるならば、条約に基づく海の秩序が保てないことから、判決を遵守するのは国際社会の共通の願いです。