(VOVWORLD) - およそ1万人の戦没者がチュオンソン墓地に眠っています。
山崎 こんにちは、山崎千佳子です。
ソン こんにちは、ソンです。山崎さん、今月27日は何の日か知っていますか?
山崎 27日。7月27日ですね。祝日じゃないですよね?ベトナムは祝日でない記念日がたくさんありますけど、何でしょう?
ソン ベトナムの傷病軍人戦没者の日なんです。国の独立のために自分の命を捧げた軍人や戦没者を敬い、感謝の気持ちを表す日となっています。
山崎 戦争の期間が長かったベトナムでは、多くの人が犠牲になったんですね。
ソン そうです。ベトナムの労働・傷病軍人・社会事業省によりますと、戦没者の数は114万人にのぼっています。そして、戦争のためにけがや病気を抱える軍人の数はおよそ50万人です。
山崎 改めて数字で見ても、かなりの数ですね。
ソン はい。そして、傷病軍人戦没者の日は、1947年に政府によって制定されました。
山崎 どうして、7月27日なんでしょう?
ソン 第一次インドシナ戦争の時に「傷兵省」が設置されたんですが、7月27日から初の全国会議を開催することになっていたため、その日が記念日となりました。
山崎 1947年からだと、今年はちょうど70年ですね。何か特別な行事が行われますか?
ソン はい。記念式典なども行われていますが、傷病軍人や戦没者の遺族に記念の品が贈られたり、奨学金が支給されるなど、様々な活動も実施されています。
山崎 戦没者の墓地もあるんですよね。
ソン はい。ベトナム全土にあります。中でも中部のクアンチ省にあるチュオンソン戦没者墓地は国内最大の墓地です。
チュオン・ソン墓地
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山崎 前にハノイ便りでクアンチ省を紹介した時に、チュオンソン墓地のことが少し出てきました。
ソン そうですね。今日のハノイ便りは、このチュオンソン戦没者墓地についてお伝えします。
山崎 ベトナム戦争中、クアンチ省は激戦地だったんですよね。
ソン はい。クアンチ省を流れるベンハイ川が、戦争中、南北を分断する軍事境界線だったんです。また、北部から南部に兵器や兵士を運ぶためのホーチミンルートという補給路の途中にあったためです。
山崎 ホーチミンルート。聞いたことがあります。アメリカ軍はそれを壊そうとしたんでしたっけ?
ソン そうです。クアンチ省を始め、ホーチミンルートに4千百万トンもの爆弾と数百リットルの枯葉剤を投下しました。ホーチミンルートが開設された1959年から南部が完全に開放された1975年までの16年間、このルートを守るために、2万人以上が犠牲になったんです。
山崎 その人達が、チュオンソン墓地に眠っているんですか?
ソン ルートを守るために亡くなったおよそ2万人のうちの、およそ1万人の戦没者が埋葬されています。
山崎 かなりの数ですけど、墓地もそれだけ広いんですね?
ソン はい。チュオンソン墓地は3つの丘なんです。面積はおよそ14万平方メートルです。
山崎 日本風にわかりやすく言うと、東京ドーム3個分くらいでしょうか。
ソン そうですね。この墓地の建設には1年半かかりました。1977年4月に完成後、身元のわからない70人弱も含め、1万300人の戦没者が眠っています。
山崎 墓地は、お墓がずらっと並んでいるんですか?
ソン 戦没者の出身地によって10の区域に分けられています。中心部には大理石でできた記念の塔があります。そこには、大きな菩提樹が記念塔を抱いているように枝を伸ばしているんです。
菩提樹 |
山崎 そういう配置で植えられたんですね。
ソン いえ。関係者の話では、墓地ができてから半年後に、自然に生えてきたそうなんです。墓地から周囲10キロのところには菩提樹は1本もないので、この菩提樹は戦没者の魂ではないかと言われています。
山崎 ベトナムでは菩提樹はよくある木なんですか?
ソン いえ。貴重なもので、寺など神聖なところにしか植えられません。
山崎 不思議ですね。やはり、亡くなった方の思いなんでしょうか。
ソン そうですね。墓地の前には人口の湖もあるんですが、いつも水がいっぱいなんです。クアンチ省は、毎年のように激しい干ばつに見舞われるのにです。
山崎 ええ?だと、この湖も墓地に眠る人が守っているというか、そういうふうに考えられているんですか?
ソン そうです。チュオンソン墓地の管理者によると、ここではこの世とあの世の人が共存していて、今、命ある者は墓を守り、亡くなった人はその者達を支えているということです。
山崎 なるほど。墓地を守る人達にとっては、そこに眠る人はもう自分の身内や親戚のように感じるのかもしれませんね。
ソン そうなんです。墓地の管理スタッフは20人ほどいるんですが、毎日、1万以上の墓と14万平方メートルの土地に植えられている樹木の手入れで、忙しいんです。
山崎 そこにお墓参りの人も訪れるでしょうからね。
ソン そうです。戦没者の日や旧正月のテトなど、大勢が訪れる時期にはさらに忙しくなります。でも、自分の仕事を誇りに大事に思っているそうです。
山崎 そうでないと、先ほどの「ここではみんなが共存している」という話は出てきませんね。戦争の犠牲者が安らかに眠れるように、お墓の手入れをきちんとされているんですね。
ソン そうですね。墓地を訪れると、その管理スタッフの大変さが分かると思います。ベトナム中部の激しい気候の中で、毎日、1人当たり何千という墓を回って掃除したり、線香を手向けたりしています。
山崎 そうだ、中部は暑さが厳しいんですよね。そんな中、なかなかできませんよね。
ソン はい。みんな文句も言わず、心を込めてやっています。
山崎 訪れた遺族の人達も感動するんじゃないですか?そういうのを見ると、安心してお墓を任せられると思いますね。
ソン そうなんです。ベトナム人は、遺体や遺骨を故郷に埋葬する習慣があるんですが、チュオンソン墓地から遺骨を持ち帰る遺族は少ないんです。
お墓参りに来る人 |
山崎 そして、戦没者の日などに、お墓参りに来るんですね。
ソン はい。北部の港湾都市ハイフォンから初めて来たという女性(グエン・ティ・ハインさん)の話です。チュオンソン墓地に、お兄さんが眠っているということです。
(テープ)
「感激です。初めてここにきて、国のために犠牲になった人達にお線香をあげられます。そして、40年以上前にさかのぼって、兄と一緒にいるようです。40年の時間の隔たりは感じません。」
ソン 時間を感じないのは、お墓がきちんと手入れされているからかもしれませんね。チュオンソン墓地はお墓ということだけでなく、若い世代に戦争や戦没者について伝える大事な場所としても考えられています。
山崎 27日の傷病軍人戦没者の日には、多くの人が墓地を訪れるでしょうね。
ソン はい。遺族はもちろん、戦争について理解しているもらうためのツアーもよく行われています。ある銀行でも、若手職員を対象としてチュオンソン墓地を訪れる企画がありました。
山崎 その担当者の話です。
(テープ)
「今のベトナムがあるのは、多くの戦争犠牲者のおかげです。それに報いるため、若者を始め、全国民が国の発展にさらに取り組むようメッセージを発信したいと思いました。」
山崎 私も含めですが、戦争を知らない世代に、戦争の悲惨さと絶対にしてはいけないもの、ということは伝えていかなければならないですね。では、おしまいに一曲お送りしましょう。「~」です。
(曲)
「~」をお送りしました。今日のハノイ便りは、ベトナム最大の戦没者墓地、チュオンソン戦没者墓地についてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。