ベトナム最北端のハザン省は、モン族やテイ族、ザオ族など複数の少数民族が暮らす民族文化が豊かなところとして知られており、少数民族の伝統家屋が省の特徴の一つとなっています。しかし、生活様式の変化により、伝統家屋の代わりに現代的な家が建てられており、伝統家屋を維持していくことがハザン省の差し迫った課題となっています。

テイ族の高床式の家

ハザン省の省都ハザン市からおよそ6キロ離れた所にハタイン観光文化村があります。これはハザン省で人口が２番目に多いテイ族の村の中にあり、伝統的な建築様式が保たれています。ハタイン集落には100戸こあまりのテイ族の高床式の家が山々の斜面に建っています。それぞれの住居は独特の文化的価値を持ち、家の博物館とされています。

高床式の家を建てるには工夫が必要です。柱や床、ヤシの葉、板など、建設資材を調達するため、山に行かなければなりません。資材を十分に用意するまでに約10年かかった家もあります。テイ族の伝統家屋は釘や鉄を使用していないのに頑丈で、職人のすぐれた技によって、器用に建てられます。地面から床までの高さは2メートル以上あり、家を害獣から守り、同時に食糧を備蓄する場所にもなります。ヤシの葉を葺いた柔らかい屋根は、およそ1千枚のヤシの葉を必要としますから、親戚や隣人にも手伝ってもらわなければなりません。

テイ族の高床式の家は複数の部屋に分かれ、真ん中の部屋には祖先の祭壇が置かれます。階段は9段あり、女性の魂を構成する９つの部分、また、人間の９つの基本的感情を象徴すると考えられています。

高床式の家のほか、ハザン省は、土壁の家も誇りに思っています。ハザン省メオバク県にあるドンヴァン高原は高い山々が広がる壮大な自然の風景で有名で、国内外の多くの観光客を魅了しています。また、ハザン省で最も人口が多いモン族の土壁の家はこの地の美しい風景を作り出し、観光の目玉スポットの一つとなっています。

モン族の土壁の家

この家の特徴はその名の通り土で固めた壁です。壁は木の板で型を取って作ります。その型は、長さ1.5メートル、幅50センチほどです。木の根やごみ、大きな石を取り除いた土を型に入れて杵で搗いて固めます。土を固めるのはとても大変な作業で、村の若者数十人に手伝ってもらわなければなりません。壁が固まると、家主の年齢にいい日を選んで、森へ家の柱や屋根の枠に使われる木を切りに行きます。こうして作られる土壁の家は、ドンヴァン高原の厳しい天候に耐えられ、夏は涼しく、冬は暖かいという効果があると言われています。

モン族の家は大きさを問わず、部屋を3つ、出入り口を2つ作らなければなりません。真ん中の祖先の祭壇の部屋は最も大切で大きな部屋です。この部屋は応接間であり、家族全員の共用の部屋でもあります。正面の入り口から中を見て左の部屋は寝室と台所です。そして、右の部屋はお客さん用の寝室です。

家の二つの入り口の内、正面の出入り口は良質の木で作ります。もう一つのは葬儀に使われますが、棺を出すときは正面の出入り口のみを使います。扉の特徴は建具が鉄製ではなく、木製でなければならないということです。人間の心に例えられる扉は、建具が鉄製であれば、刀ようであるので、家主の心を示すことができないからです。

しかし、近年、ハザン省の村々では、現代風の家を建てる動きがあります。こうした傾向に対し、地元の行政府は伝統家屋への村人の認識を高めるとともに、多くの補助政策を展開しています。ハザン省ドンヴァン県スンラ村人民委員会のラ・ミ・カ委員長は次のように語りました。

（テープ）

「現代風の家を建てたい人が増えているので、村は伝統家屋の保存の重要性を村人に理解してもらうために宣伝啓もう活動を行っています。実際、観光客は伝統家屋の方が好きなので、これらの家を観光スポットにすれば、伝統家屋の家族の収入増加につながるでしょう」

ハザン省は２年前に、伝統家屋保存プログラム（１９５３プログラム」を開始しました。このプログラムでは、伝統家屋を所有する人は６０００万ベトナムドン（日本円で３０万円）の補助金を供与されるとともに、ベテラン職人の指導を受けて昔から伝わってきた技術で家を修理・保存することができます。ハザン省ドンヴァン県人民委員会のグエン・ヴァン・チン副委員長は次のように語りました。

（テープ）

「ドンヴァン高原に暮らす少数民族の人々を対象に、より大きな支援政策を取れればいいと思います。伝統家屋の瓦や木材の価格はかなり高いからです。現在、ハザン省が展開している伝統家屋の保存を目指す補助政策により、多くの伝統家屋がきちんとした状態で保たれており、観光客に好まれる観光スポットとなっています」

こうした取り組みにより、高床式の家や土壁の家がずらりと並ぶ村が、ハザン省ならではの風景となり続けることでしょう。