山崎 こんにちは、山崎千佳子です。
ソン こんにちは、ソンです。今日のハノイ便りは、ベトナムの一弦琴ダンバウをご紹介します。
山崎 一弦琴は、弦が一本だけの弦楽器ですね。日本にも須磨琴という一弦琴がありますが、これは一枚の板に一本の弦だけが張られたシンプルなお琴です。中国やインドなど他の国にも一弦琴はあるようですけど、ベトナムのダンバウはどんなものになりますか?
竹製のダンバウ(写真:tatham.vn)
ソン 構造は非常に単純ですが、独特な楽器です。竹やひょうたんなど、ベトナム人の日常生活で簡単に手に入るものを使って作られていました。ダンバウの本体は昔は竹製でしたが、現在では、木材で作られています。
山崎 大きさはどれくらいですか?
ソン 幅が十数センチで長さが80センチほどの細長い木製の箱になります。
山崎 日本のお琴より小ぶりな感じですね。
ソン そうですね。本体に、フォークギターなどに使われるスチール弦が一本張られています。また、箱型の本体の左端には20センチから30センチぐらいの、外側に少し曲がった細い棒、竿が突き出ています。
山崎 何のためのものですか?
ソン 弦の張力、引っ張る力を加減するものです。これで音に変化をつけます。この竿はダンバウ独特のものです。
山崎 へえ。演奏する時は、日本の琴と同じように、指先に爪をつけて弾くんでしょうか?
ソン そうです。耳かきのような小さな竹のピックで弾きます。
山崎 ダンバウの音の出し方について、ダンバウ奏者( Kim Thanh)が話しています。
(テープ)
「ダンバウの音色の特徴は、弦が振動する時に生まれる倍音です。弦をはじいて音がなっている間に、また右手の小指で軽く弦にさわって音を出します。これを倍音と言います。その間に左手で竿を微妙に調整して、メロディーを演奏するんです。倍音を出す弦にすばやく小指を触れさせ、微妙な竿の押し引き加減で正確な音を出します。」
山崎 私はインターネットでダンバウの演奏を見てみたんですが、これは難しそうですね。右手と左手の微妙な指加減はなかなかできないと思いました。特に左手の竿の震わせ具合が、もう熟練の技という感じです。
ソン そうですね。この微妙な音が出るダンバウは、ベトナム人の気持ちを表すのに最適ということで、ベトナムの様々な伝統歌劇に欠かせない楽器となっています。
山崎 ダンバウはどのようにできたんでしょう?
ソン これもいろいろな説があるんですが、歴史的書物によりますと、ダンバウが初めて登場したのは北部の平野部ということです。昔は、貧しい人々や目の不自由な人たちがよく奏でる楽器だったそうです。
山崎 長い歴史がありそうですね。
ソン はい。11世紀初めから13世紀初めまでのリー王朝時代に、ダンバウが一般の人々の琴というイメージが定着しました。
山崎 一般の人々の琴、というのは庶民的な楽器ということですか?
(写真:tatham.vn)
ソン そうです。人々にとって身近なものというイメージですね。そして、時代を経て、ベトナムの最後の王朝であるグエン朝時代の1892年には、当時の都である中部のフエに運ばれて、王朝の高官のために演奏されました。
山崎 グエン朝の第十代皇帝タインタイが、ダンバウの音色のとりこになったということで、王宮のオーケストラにも使われたそうですね。ここでちょっとダンバウの音をお送りしましょう。
(テープ)
山崎 弦が一本だけとは思えませんね。メロディー、音程は左手の竿で調整しているんですよね。ベトナム音楽院の元副院長(Dang Hoanh Loan) は「ベトナムのダンバウは、世界にある他の一弦琴と全く同じものではない」とコメントしています。そして、その保存を強く推奨しています。
(テープ)
「ダンバウはベトナム民謡と同じように、ベトナム人の心と密接に結び付くものです。この楽器の保存のため、すぐやらなければならないことが3つあると思っています。まず初めに、国家規模、また世界規模でシンポジウムを行い、ダンバウが独特な楽器であることを証明すること。2番目に、ダンバウが国家遺産として認定されること。3番目に、ベトナム伝統音楽に関する辞書を作ることです。」
山崎 現在はベトナムを訪れる外国人観光客向けの演奏で、ダンバウがよく登場するそうです。また、ベトナム人アーチストが海外で公演を行う時にも、ダンバウがよく使われるということです。
ソン 昔はダンバウでベトナムの伝統音楽だけが演奏されましたが、今では多くの若いアーチストがダンバウを利用して、最近のポップスや外国音楽の演奏も行っています。
山崎 なじみのある曲が演奏されると、外国人にとっても興味深いですよね。
ソン そうですね。ダンバウは南北に細長いベトナムの国土のシンボルとも言われています。ベトナムをピーアールできる楽器と言えば、ダンバウが挙げられます。
山崎 竹楽器のトルンなどよりも、ダンバウですか?
ソン そうですね。(コメント)
山崎 では、おしまいに一曲お送りしましょう。ダンバウの曲ですね。ダンバウ演奏~で、「ラブストーリー」。
(曲)
~の演奏で、「ラブストーリー」をお送りしました。今日のハノイ便りは、ベトナムの一弦琴ダンバウについてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。