ベトナムの伝統信仰「マウタムフー」とその保存活動



山崎  こんにちは、山崎千佳子です。

ソン こんにちは、ソンです。今日のハノイ便りは、ベトナムの伝統信仰「マウタムフー(Mau Tam Phu)」とその保存活動についてお伝えします。

山崎 マウタムフー。初めて聞きました。どういう意味ですか?

ソン 漢字で書くと、母三府です。他にも聖母道などと呼ばれています。

山崎 あ、聖母道と言われるとわかります。前にハノイ便りでお伝えしました。マウタウフーの方が一般的ですか?

ソン うーん、聖母道という言い方もよく使われますが、ユネスコに登録されたのはマウタムフーですね。

山崎 ええ?ユネスコに登録?無形文化遺産ですか?

ソン そうなんです。昨年12月にユネスコの無形文化遺産に登録されました。


ベトナムの伝統信仰「マウタムフー」とその保存活動 - ảnh 1

山崎 知りませんでした。世界遺産や無形文化遺産が増えていきますね。やはり聖母道、マウタムフーが独特で貴重なものだからですか?

ソン ユネスコによりますと、この信仰は民族や宗教に関係なく広まり、特有のものになったことで、ベトナム人の生活に様々な影響を及ぼしてきたとされています。

山崎 歴史があるものなんですよね。

ソン はい。16世紀にできた信仰で、天・地・水の3人の聖母を崇拝するものです。この信仰は、ベトナムのその土地土地にある民間宗教や中国から伝わった道教や他の宗教が混ざって、広く伝わってきました。

山崎 いろいろなところで他のものと混ざってきたということは、発祥の地というのは特にないですか?

ソン マウタムフーの寺院はベトナム全土にあるんですが、メインはホン川デルタ地方のナムディン省と言われています。ナムディン省には、マウタムフー寺院がおよそ400もあるんです。

山崎 へえ。あと、先ほどソンさんが、ユネスコの無形文化遺産に登録された理由として、民族や宗教に関係なく広まったと言っていました。少数民族の人たちも信仰してるんですか?

ソン はい。ベトナム人のおよそ85%を占めるキン族の他に、ムオン族やタイ族などの少数民族にも広まっています。

山崎 みんなに受け入れられる要素があったんでしょうね。

ソン そうですね。ベトナム人の願いや幸福観などが反映されていて、一部のベトナム人の心のよりどころともなっています。

山崎 ベトナムで一番人口の多い宗教は仏教ですよね。マウタムフーはどうですか?多いですか?

ソン マウタムフーだけを信じるというより、仏教とマウタムフーのどちらも信仰している人が多いと思います。ユネスコの無形文化遺産として認定されてから、国もマウタムフーの保存計画を作りました。

山崎 これについて、ベトナム文化芸術研究所所長(Nguyen Chi Ben)はこのように話しています。

(テープ)

「最も重要なことは、マウタムフーの宗教儀式を行う人への告知です。同時に、すべての人に対して、この信仰の本質を理解してもらわなければなりません。信仰と迷信との境を見極めることは重要です。」

山崎 ソンさん、この所長の話で、2つ疑問に思ったことがあります。儀式を行う人に何を告知するんでしょう?それから、信仰と迷信の境というのは具体的に何でしょう?

ソン 告知の内容は、儀式を行う際の注意点、規制です。それは信仰と迷信の境ということにつながるんですが、前にハノイ便りで聖母道について取り上げた時、その儀式についてお伝えしたのは、山崎さん、覚えてますか?

山崎 儀式、というと確か、お祓いのようなものですよね?

ソン そうですね。ベトナム語ではレンドン、ハウドンとも言いますが、これはマウタムフー信仰の最も重要な儀式です。神が霊媒師に乗り移って、預言や踊りなどを行うことです。バードンと呼ばれる霊媒師を通じて、神と向き合う儀式です。

山崎 思い出しました。霊媒師にいろいろな神様が取りついて、人々はそれにお祈りするんですね。

ソン そうです。そして、注意点、規制は、降りて来る神に捧げる物や服装、化粧の仕方、踊りや音楽について決められています。

ベトナムの伝統信仰「マウタムフー」とその保存活動 - ảnh 2


山崎
踊り。そうでした。単にお告げやお祈りだけでなくて、踊りなどもあるんでしたね。宗教行事ですけど、民間芸術の要素もありました。でも、宗教に関するものをこうしなさいと規制してしまっていいんですか?

ソン その理由が、信仰と迷信の境になるんですが、せっかく素晴らしい伝統的価値のあるマウタムフーなのに、よくないことを考える人がいるんです。

山崎 何ですか?

ソン 前に寺参りの時にも話しましたが、お供え物、貢ぎ物が多ければ多いほど、神様は自分によくしてくれる、いいことがあると考える人がいて、霊媒師がビジネスのようになっている現実があります。

山崎 神様にすがりたいという気持ちを利用する人がいるんですね。タンロン・ハノイ文化遺産協会会長(Luu Minh Tri)の話です。

(テープ)

「ハウドン儀礼は規制に基づいて実行しなければなりません。この儀式を商品化させてはいけません。信仰はセンシティブで、心霊、精神の問題で大事ですから、規制を広く知らせる必要があります。」

山崎 信仰でお金儲けをしてはいけないということですね。

ソン はい。ベトナムの文化スポーツ観光省は、2017年から2020年期のマウタムフー信仰の保護に関する国家行動計画を公表しました。

山崎 何をするんでしょう?

ソン 今年から再来年まで、ハウドン儀式に関する告知を行います。社会全体の認識を向上させるためです。それから、マウタムフー信仰の研究や資料をまとめて、ウェブサイトを開設する予定です。

山崎 告知方法は、マスコミを使ってですか?

ソン はい。政府が文書を作って、新聞、テレビ、ラジオで告知します。

山崎 告知の他には何かありますか?

ソン 2020年から2022年までは、ハウドン儀式で使われる伝統的民謡ハットバンの保存活動とピーアールを行います。そして、儀礼に関して国家レベルのアンケート調査を行います。

山崎 大掛かりですね。ベトナム信仰文化研究保存センター所長(Ngo Duc Thinh)の話です。

(テープ)

「人々の信仰活動への認識を深めるため、適切なピーアール方法を研究しています。自分の宗教に関するきちんとした理解があれば、人々は自らその保存活動に参加します。これまでを考えると、人民の力、参加がなければ何をしてもうまくいきません。」

山崎 そうですね。有形、無形問わず、何でも、そこに住む人、実際に行っている人の意識が不可欠ですね。では、おしまいに一曲お送りしましょう。「~」です。

(曲)

「~」をお送りしました。今日のハノイ便りは、マウタムフー信仰とその保存活動についてお伝えしました。それでは今日はこの辺で。

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