山崎 こんにちは、山崎千佳子です。
ソン こんにちは、ソンです。
山崎 先週はテトの特別番組をお送りしました。今日のハノイ便りはベトナムの民謡クアンホについてお伝えします。
ソン はい。テト明けには、いろいろな祭りや行事が行われます。春の祭りシーズンなんです。
山崎 前にもお伝えしたことがありますね。新春の祭り、ですね。
ソン そうです。その中で有名なものの一つに、旧暦の1月13日にバクニン省で行われるリム祭りがあります。今年は新暦の2月9日になります。
山崎 もうすぐですね。
ソン はい。そのリム祭りがクアンホで有名なんです。
山崎 へえ。あ、クアンホはベトナム北部で生まれたんですもんね。
ソン そうです。北部のバクニン省とバクザン省が発祥の地です。ハノイから車で1時間ぐらいのところになります。
山崎 クアンホは、ユネスコの無形文化遺産に登録されているんですよね。
ソン はい。2009年に登録されました。
クアンホのグループ
山崎 ここで、ちょっとクアンホをお送りしましょう。「~」です。
(曲)
「〜」をお送りしました。クアンホは、男女のグループでの歌の掛け合いなんですね?
ソン そうなんです。それぞれ4、5人ずつの男性と女性グループが、春と秋の祭りなどで歌い合います。一方のグループが歌ったら、もう一方のグループはその歌と同じメロディーに違う歌詞をつけて歌い返します。歌が、ある詩の一部分だった場合は、返す歌も、その詩の中の言葉でなくてはいけないなどのルールがあります。
山崎 へえ、適当に歌ったらだめなんですね。単語力とか瞬発性とかいろいろな力が求められますね。難しいですよね。
ソン そうですね。クアンホを歌うのは男女のグループなので、歌の内容は恋愛や友情に関するものが一番多いです。故郷への思いなどを歌うものもあります。祝い事や宗教儀式、雨乞いなどの祈願、厄除けの歌もあります。
山崎 ありとあらゆるものがテーマになるんですね。でも一番多いのは恋愛ものということで、その男女のグループのメンバー間で結婚する人なんかも多いですか?
ソン いえ、それが違うんです。クアンホのグループ同士というのは、あくまで友情関係なんです。これは風習です。2、3年で関係を解消する時もあれば、一生続くグループもあります。また、次の世代までその交友関係が続くグループもあるんです。誘い合って祭りに行ったり、クアンホ以外の場面でも助け合ったりします。
山崎 でも、恋愛関係にはならない、というか、だめなんですね。
ソン はい。一旦交友関係を結ぶと、グループのメンバー同士が結婚することは禁じられていました。
山崎 厳しいですね。風習ということですけど、今もそのままなんですか?
ソン 今の時代はそれが自由になりました。
山崎 時代の変化ですね。 よかったですね(笑)。
ソン そうですね。でも、クアンホに関するものの多くは、今も昔ながらのスタイルが保たれています。例えば、衣装です。
山崎 アオザイじゃないんですか?
ソン ちょっと違います。男性は2枚重ねの丈の長いゆったりした上着に白いズボンで、黒い傘をさします。
山崎 なぜ黒い傘をさすんでしょう?
ソン (説明)そして女性は、胸当てのようなものの上に長い上着、長いスカートをはきます。
山崎 アオザイとは違って、スカートなんですね。
ソン はい。そして、カラスのくちばしと呼ばれる黒いスカーフを頭に巻いて、円形の菅笠を手に持ちます。
山崎 菅笠は、男性の黒い傘と同じ役割でしょうかね。そういう衣装を着ている人は、クアンホの歌い手と分かるんですね。
ソン そうです。そして、歌う前には、お客さんにお茶などを振る舞って、誠意を込めてもてなすのがクアンホの決まりです。
山崎 お客さんにお茶を出すんですか?サービス満点ですね。
ソン そうですね(笑)。クアンホは、歌だけでなくて、衣装やもてなしなども含めて、ベトナム独特のものだと思います。そういった意味でも、ユネスコの無形文化遺産として認められたんだと思います。
山崎 なるほど。無形文化遺産はこれからも守っていかなければならないというものだと思いますが、クアンホはどうですか?保存活動はどうでしょう?
ソン 順調という言葉が適切かわかりませんが、いまくいっていると思います。住民がクアンホを歌える村はクアンホ村と呼ばれていますが、2009年にユネスコの無形文化遺産となった時には、バクザン省とバクニン省で49のクアンホ村がありました。それが去年2016年には67になったんです。
山崎 すごい。増えているんですね。無形文化遺産になってから、みんなの意識が高まったということでしょうか?
ソン そうですね。クアンホを覚えようという動きが盛んになったようです。例えば、バクザン省にフーギー村というところがあります。ここでは土曜の午後になると、村のあちこちでクアンホが聞こえます。土曜の午後はクアンホの練習時間となっているんです。
山崎 村を挙げての活動ですね。でも、それぞれ本業があるでしょうし、趣味の一環ということになりますよね?
ソン はい。農業や建設関係など村人はいろいろな仕事をしていますが、共通しているのがクアンホを大切に思う気持ちです。
山崎 郷土愛なんでしょうね。
ソン そうですね。クアンホの衣装を着ると、日常生活のことを忘れて、クアンホに没頭するそうです。この村の人たちは、幼い時からクアンホを自然に身につけるんだそうです。
山崎 それだけ自然にクアンホが耳に入る環境なんですね。
ソン はい。今年80歳になるフーギー村の女性(グエン・ティ・モ)の話です。
(テープ)
「子供の時、おばあさんや姉と一緒にクアンホを習いましたが、最近のような決まった練習の時間はなかったです。昔のクアンホは歌いにくいところもありますが、歌詞の意味も深いですから、昔のクアンホを若者に教えていきたいと思っています。」
80歳のグエン・ティ・モさん(左)
ソン フーギー村のお年寄りは、昔のようには声を出せないというものの、クアンホを村の貴重な財産と考えています。クアンホクラブを作って、若者に教えているそうです。
山崎 昔のクアンホと今のクアンホは違うんですか?
ソン 基本的には同じ旋律ですが、歌声だけだった昔のものに比べると、いわゆるBGMがついている今のクアンホは歌いやすいようです。
山崎 確かに、バックに音がある方がわかりやすいでしょうね。
ソン そうですね。でも、昔ながらの先祖代々のものを今の世代に伝えたいと考える人もいます。
山崎 フーギー村クアンホクラブ、リーダー(チャン・ヴァン・テ)の話です。
(テープ)
「村のお年寄りから昔の歌を習ったり、有名なクアンホ村へ昔の歌を集めに行きました。クラブでそういったクアンホを練習したり、若い人たちに教えたりしています。昔のクアンホを100曲以上、上手に歌える若者もいるんですよ。」
山崎 このフーギー村のクアンホクラブは、ほかのクアンホ村と頻繁に交流したり、省や全国レベルのクアンホ大会に参加したりしているそうです。
ソン 海外公演も行ったことがあるということです。
山崎 大活躍ですね。
ソン そうですね。バクザン省ベトイエン県の文化室長によりますと、こういったクアンホの保存活動は多くの村で行われているんだそうです。現在ベトイエン県にはおよそ100のクアンホ教室があるということです。
山崎 いいことですね。そのバクザン省ベトイエン県文化室長(ダオ・チョン・カ)の話です。
(テープ)
「クアンホの練習が盛んになっていますが、その質も高めたいと思います。昔のクアンホを守って伝統を保存していきたいのです。そして、それを地元の観光発展と結びつけたいと思っています。クアンホは観光客を引きつけます。」
山崎 では、おしまいに現代風にアレンジされたクアンホをお送りしましょう。「~」です。
(曲)
「~」をお送りしました。今日のハノイ便りは、ユネスコの無形文化遺産に登録されているベトナムの民謡クアンホについてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。