山崎  こんにちは、山崎千佳子です。ソンさんとハノイ便りをお送りします。ソンさん、よろしくお願いします。

ソン   お願いします。今日のハノイ便りは、ベトナム戦争中、１４年間に渡って、手紙のやり取りをしていた夫婦の話です。

山崎  １４年間ですか？その間、ずっと離れていたということですよね？

ソン   そうです。戦時中、南部解放のため、北部に住む多くの人が、家族のもとを離れて、南部の戦場に向かいました。

山崎   今と違ってインターネットがない時代ですから、連絡手段は手紙だけだったんでしょうね。

ソン   はい。戦争が長引いて、いつ帰ることができるのかも分からない時代でした。ハノイ市内に住むグエン・バン・イックさんとブ・ティ・ヌー・ヒエンさんの夫婦は、今年70歳。しかし、戦争当時のことを、つい昨日のことのようにはっきりと覚えているということです。

山崎  南部の解放は、ベトナム人にとってやらなければならない任務のようなものだったそうです。1962年、夫のイックさんは北部に住んでいた家族、妻と３人の子供、年老いた母親を置いて、南部の戦場に向かいました。イックさんの話です。

（テープ）

「国の呼びかけを聞いて、まだまだ若かった私は南部の完全解放のため、戦場に行くことにしました。妻も私の気持ちをわかってくれて、南北が統一されたあかつきに再会することを約束しました。」

山崎   戦地に赴く前に、写真撮影をしたというイックさん夫妻。その写真に、妻のヒエンさんは「光栄で重大な任務を果たすことを祈ります。あなたの帰りを待っています。子供たちもお父さんの帰りを待ちます」と書いたそうです。イックさんは、その写真と共に戦場に向かいました。

ソン  戦争がいつ終わるか、また、戦地での危険な状況など、不安なことは尽きません。しかし、南部の完全解放のため、心を決めて、南部に向かったイックさんでした。妻のヒエンさんは、こう話します。

（テープ）

「その当時、他の奥さんたちはご主人たちと普通の生活を送っていたのに、自分の夫は戦場に行ってしまったわけです。いろいろ心配しました。でも、私の夫のような人たちがいなかったら、南部の完全解放は成し得なかったと思います。」

ソン   今日のハノイ便りは、戦時中の１４年間にわたって、千通もの手紙をやり取りした夫婦についてお伝えしています。ここで、一曲お送りしましょう。「～」です。

（曲）

「～」をお送りしました。

山崎   戦地に赴いたグエン・バン・イックさんは、従軍医師として活動しました。妻のヒエンさんは、年老いた夫の母の面倒をみながら、3人の子供を育てました。収入を得るために仕事もしていたということです。

ソン   当時、手紙は連絡を取るための唯一の手段でした。口にはしないものの、二人とも、相手の手紙を受け取っている限りは、相手がまだ生きているということだと理解していました。

山崎  イックさん夫妻は、1ヶ月に平均で2通から4通の手紙をやり取りしました。戦地から送ったイックさんの手紙には、主に奥さんと子供への励ましの言葉、そして、南北は必ず統一されるということが書かれていたそうです。イックさんの話です。

（テープ）

「1969年から1970年にかけて、戦局は非常に悪くなりました。食べ物も不足して、傷病兵もたくさん出ました。そんな中でも、自分たちの任務に力を尽くしました。1971年以降に、状況が改善されてきました。つらいことがあっても、それは今だけだと思って、勝つ日を信じていました。」

山崎   イックさんとヒエンさんの間で交わされた手紙の多くは、相手の元に届かなかったということです。長期間に渡って、夫からの手紙がないと、ヒエンさんはいてもたってもいられなかったと言います。１4年間、およそ5000日の間、いつも不安を抱えながら毎日を送っていたそうです。

ソン   1975年4月30日、ベトナム南部が解放されました。イックさんは無事に路地に着くことができ、一家は再会しました。ヒエンさんは、その時のことを忘れられません。

（テープ）

「ベトナムが平和を取り戻してから、夫が帰ってきました。40歳を超えていました。心を込めた食事を用意して、本当に久しぶりの一家団欒でした。いろいろなことを語り合いました。やっと幸せが訪れました。」

ソン   ベトナム戦争の終結から４０年が経ちましたが、戦時中に交わされた手紙を始め、戦争にまつわる多くの物が残されています。イックさん夫妻の手紙も残っていますが、やり取りした千通ものうち、今あるのは300通だけです。

山崎   この３００通は、現在、ベトナム軍事歴史博物館で保存されているということです。こういった手紙を目にすると、戦争当時、自分の幸せより、国の独立と自由のために戦った人たちの思いが伝わりますね。

ソン  そうですね。では、おしまいに一曲お聴き頂きましょう。「～」です。

（曲）

「～」をお送りしました。

今日のハノイ便りは、ベトナム戦争中、１４年にわたって、千通もの手紙をやり取りした夫婦についてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。