ベトナム中部に集中的に住むヴァンキェウ族は、この民族ならではの豊かな踊りや民謡で知られています。その踊りや民謡を披露するのに欠かせないのが、弦楽器、ドラ、ラップなど様々な楽器です。その中で、特に幾つかの笛はよく使われる楽器の一つで、ヴァンキェウ族の精神の拠りどころとなっている重要な存在であると言われています。
クァンビン省クァンニン県チュオンソン地区ケカット村の村長ホー・アイさんはヴァンキェウ族の楽器の生き字引と例えられるほど、伝統的な楽器のほとんどを創作したり、使いこなすことができます。ホー・アイさんによりますと、ヴァンキェウ族の楽器はそれぞれ使う場面が決まっています。儀式などでしか使わない楽器もあれば、お祭りなどでしか使わない楽器もあります。儀式などで使われる楽器の中で、ピーという笛を抜きにして語ることはできないとしています。ホー・アイさんの話です。
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「竹で作られたピーという笛は、奉納式や鎮魂祭で吹かれるものです。この笛は祈祷師の神聖さを示すものだと考えられます。ピー笛のほか、スイという笛、ドラ、太鼓は神聖な信仰の表れで、奉納式などでしか使われていません。お祭りで使っちゃダメです。」
ピー笛を楽しんでいるお年寄り(写真:bienphong.com.vn)
ヴァンキェウ族の人々の考えでは、ピー笛の音があがると、魂の扉が開きます。神はピー笛の音を通じて人の祈りしか聞こえないからです。そのため、この民族の言葉で魂という意味を持つピーはこの笛の名前になりました。
ヴァンキェウ族の様々な笛の中でも、クイという笛もこの民族の精神生活にとって重要な存在です。クイ笛は人生、生活、人間関係などに対して自分の考えを示す音を出せると言われます。ピー笛が儀式でしか使われないのに対し、こうしたクイ笛はお祭りなどでよく使われています。
若者にクイ笛の吹き方を教えているお年寄り(写真:dantocviet.vn)
ヴァンキェウ族の習慣では、クイ笛を吹くのは中年の男性だけです。ヴァンキェウ族の笛に詳しいホー・ヴァン・トゥオンさんの説明を聞いてみましょう。
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「かつて、稲が実る頃になると、男たちは田畑を鳥や動物が食い荒らすので守らなければならなかった。そんな時、暇な時間が結構あるので、竹に穴をあけて吹いていました。その音は思ったより良くて、孤独を和らげてくれました。また、男たちはこの笛を使って、隣の畑を見守っている人と交流したものです。」
こうしたクイ笛を作るのは簡単ではありません。まずは、笛にふさわしい竹を探すことです。若い竹でなく古い竹がいいですが、厚すぎると、いい音が出ないと考えられます。調度いい竹を見つけた後、その木を切るいい日を選びます。旧暦の15、16日など月が明るい満月の晩がいいと言われています。切る前は民謡を一曲を歌うのが習慣です。それは竹が歌を聞いた時、その笛がより良い音色を出せるということです。切った後、台所で、1ヶ月から2ヶ月間乾燥します。赤く焼いたのみで穴をあけます。
ピーとクイのほか、男女の歌垣用のテリルや、結婚式で使われるコルイという笛もあります。これらの笛の音は現在も、ヴァンキェウ族の生活の中で鳴らされており、この民族独得の文化の保存に寄与しています。