ベトナム中南部に住む少数民族ラグライ族の代表的な楽器として、マレーというドラ、石でできた「ダン・ダ」( Dan Da)という独特の楽器、サラケル( Sarakel)という笛、チャピ(Chapi)という弦楽器などが挙げられます。ラグライ族の人々の精神生活では、楽器は親しい友人のような存在で、新米祭りやボマ儀式などすべての行事に欠かせないものとなっています。
ラグライ族の楽器の中で、最も独特なのは石でできた「ダン・ダ」という楽器です。このダン・ダは中南部カインホア省カインソン県を中心に分布している特殊な石でできています。この石は、火山岩の一種である流紋岩で、叩くと、遠くまで響く美しい音が出ます。ラグライ族の人々は最初、鳥や動物が田畑を食い荒らすのを守るため、この石の音を使って鳥や動物を追い払いました。その後、この石の数本を並べて叩くと、美しい音を出せることを発見したラグライ族の人々は「ダン・ダ」を作って、行事でよく使っていました。
単なる石の10本から、大自然の響きを届けるようなダン・ダです。(ダン・ダの音)
お聞きいただいたのはダン・ダの音色でした。ラグライ族の一人でこの民族の文化を研究しているマウ・クォック・ティエンさんによりますと、ダン・ダはおそらく、ラグライ族の初めての楽器で、長い歴史を持っています。ティエンさんの話です。
(テープ)
「カインソン県のダン・ダについて触れると、ラグライ族の文化を思い出します。1979年、カインソン県で、12本の石からなるダン・ダが見つかりました。こ のダン・ダは地元の石でできたもので、その年齢は3000年から5000年にものぼるということが明らかにされました。」
ラグライ族の楽器はマレーというドラを抜きにして語ることができません。マレードラは銅でできて、取っ手がありません。演奏者は、手でドラを叩きます。マレードラは、5個か7個か9個のセットで演奏されます。母系制のラグライ族なので、セットの中で一番大きいドラはお母さん、2番目の大きなドラはお父さんと呼ばれています。次は大きい順に小さい子供と呼ばれます。
高音と低音の両方を出せるマレードラは、ラグライ族の楽器の中で最も使われる楽器の一つです。死者との別れを意味するボマ儀式や結婚式、新米祭りなどすべて の行事はもちろん、家族団らんや友達の集いなど日常生活でもよく使われます。ラグライ族の人々は「お酒があると、マレードラがある」とよく言っています。
ラグライ族ならではの楽器としては、弦楽器の「チャピ」が挙げられます。長さおよそ30センチ、直径10センチ以下の竹の節の一つに、竹の皮でできた5本から8本の弦をつけるチャピです。チャピの音色は独特のもので、大自然の音を響かせると言われています。(チャピの音)
チャピの音色はマレードラのと似ているところが多いですが、マレードラより持ちやすいので、日常生活に欠かせない存在です。マレードラは大きな財産のようでお 金持ちのものであり、チャピは一般人の楽器です。かつてはラグライ族の人なら、誰もがチャピを持って弾くことができました。
「ダン・ダ」、「マレードラ」、「チャピ」の他、ラグライ族の独特な楽器として、友人を呼ぶための「タクン」という笛、男が女に愛を告白するための「ディン トゥット」という笛も挙げられます。ラグライ族の研究を専門とするファン・クォック・アイン博士は次のように語りました。
(テープ)
「ラグライ族の楽器はダン・ダ、チャピ、サラケル、特に、マレードラなど種類が豊富で、とても独特です。自然が溢れるこの民族の楽器とその演奏は国内外の観光客を魅了するもので、観光を発展させる大きな原動力だと思います。」
音楽は民族の精神を反映するもので、ラグライ族の楽器とその音楽はこの民族の宝物として代々受け継がれています。