中部高原地帯テイグエン地方に住むモノン族は他の少数民族の中でも群を抜いて、野性の象の狩猟と調教をすることでよく知られています。彼らにとって象は大きな財産であるだけでなく、日常生活の中でも物心両面において重要な位置を占めている動物です。また、象は共同体の一員として見なされています。
テイグエン地方のダクラク省民族博物館の史料によりますとモノン族の間に伝わってきた野生象の狩猟・調教はイ・トゥ・カヌルという人を創始者としています。カヌル氏は生前、およそ500頭の野生象を捕まえたことで、象の狩猟の王様と呼ばれてきました。現在、ダクラク省、ブオンマトート市の博物館やドン村に行くと、昔、行われた象の狩猟にまつわる道具や映像が保存されています。ダクラク省民族博物館のダオ・ミン・ゴックさんは次のように語りました。
(テープ)
「野生象の狩猟と調教はモノン族の生活と緊密に結びついています。モノン族は長年にわたり、象の狩猟と調教に関する経験を積んできました。昔、野生の象を捕まえるためには、狩猟者およそ10人と飼育した象5、6頭を必要としました。2歳から4歳の野生の象しか捕まえません。こうした象は調教しやすいからです。」
捕獲した象は5~7ヶ月間にわたり調教されます。また、調教が数年間かかる場合もあります。調教された象を対象に「村に入れる」という儀式が行われます。村人は象を共同体の一員として扱うのです。「象を村に入れる」儀式では、象がまじめに働き、村人の畑仕事を手伝うよう祈ります。
現在、ベトナム法律と移動性の野生動物種の保護に関する条約に従って野性動物の狩猟は禁止されていますが、モノン族の象の調教は保たれています。ラク県のドン集落とリエンソン村では50頭あまりの象が調教され、また、ダクラク省に住むモノン族の人々は象に関する様々な風習を維持しています。4世代にわたり、象の調教に従事している家系に生まれたダム・ナン・ロンさんの話をお聞き下さい。
(テープ)
「我々モノン族にとっての象は物的価値はもちろん、精神的、文化的価値もあります。毎年、雨季になると、象を供養する儀式が行われ、餌が豊かな季節に入ったことを告げますが、乾季の初めにも同様の儀式が行われ、餌がなくなったシーズンが来たと告げるのです。私たちは象に厚い思いを寄せています。」
ダクラク省で調教を受けた象は地元住民独特な象徴となっています。象は畑仕事を助けたり、物資を運んだりして、日常生活において役に立つ動物となっています。一方、ドン集落やリエンソン村では象に乗って、集落を一周するツアーが開発され、観光客の人気を集めています。リエンソン村の住民イ・ティンさんは次のように話しました。
(テープ)
「いつもこの象と一緒ですよ。彼は「喜び」を意味するイ・マムという名前をつけました。彼の性格を知らなければ、思うように動かすことができません。この象の健康状態がいいです。林で、木の葉を食べますが、家ではバナナやサトウキビを食べさせます。また、彼に優しくする必要があります。」
この数年、社会が発展するにつれ、森林の面積が縮小され、象の数も少なくなっています。こうした事情を踏まえ、ダクラク省行政当局と住民は象の発展を目指し、あらゆる手を尽くしています。2009年、同省の農業農村開発局はヨクドン国立公園での600億ドン、約3億円相当の象保存センターの設立プロジェクトを立案しました。これは象の発展に対する国家と地方共同体の出資を調達するだけでなく、国民一人一人に象をテイグエン地方の文化遺産として保存することへの意識を芽生えさせることを狙っています。