イスラム過激派組織との戦闘が続くイラクでは、新しい首相候補に指名されたアバディ氏が内外の支持を固める一方、現職のマリキ首相はあくまで退陣を拒否する姿勢を崩しておらず、対立が続いています。
イラク難民(写真:TTX)
イラクでは、イスラム過激派組織の台頭を招いたとしてマリキ首相に退陣を求める声が強まり、11日、国民議会の副議長でイスラム教シーア派のアバディ氏が新しい首相候補に指名されました。
政界亀裂
アバディ氏の指名に対しては、マリキ首相と対立してきたスンニ派勢力の多くが支持を表明しています。また、これまで同じシーア派としてマリキ首相を支えてきた隣国のイランや、周辺国のトルコ やサウジアラビアも相次いで支持を表明し、アバディ氏は首相就任に向け内外の支持を固めています。
これに対し、退陣を拒否するマリキ首相は12 日、軍や治安機関の幹部を集めて会議を開きました。会議ではマリキ首相が「政治的な問題から距離をとるように」と訓示したとされていますが、一部では、マリキ首相が依然として軍などを掌握していることをアピールし、対立する勢力をけん制するねらいがあったと見られています。
首都バグダッドでは12日、シーア派住民の多い地域で爆弾テロが相次ぎ、政治的な対立をあおろうとするイスラム過激派の犯行とみられていて、混乱がますます深まる事態となっています。
いらだちの声
新しい首相の選任を巡って政治的な対立が続き、混乱が長期化していることに対し、イスラム過激派組織の襲撃によって家を追われ、2か月以上も避難生活を強いられている人たちからは、いらだちの声が上がっています。
ク ルド人自治区の中心都市アルビル郊外の建設途中のビルには、第2の都市モスルから逃れてきた住民、およそ1000人が身を寄せていて、厳しい暑さに耐える 生活を続けています。難民は、政治家を強く非難しています。
特に、「一般市民にとって、スンニ派もシーア派も関係ない。宗派を利用して争っているのは政治家だけだ」との批判もあります。一方、これまでマリキ政権と北部の油田地帯の領有などを巡って対立していたクルド人自治区の住民からは、マリキ首相に代わる新しい首相候補が指名されたことに歓迎の声が上がっています。
政治対立に加え、スンニ派原理主義組織IS=「イスラム国」はイラクで国土の約3分の1を制圧するまで勢力を拡大し、戦闘が激化しています。
こうした中、「イラク情勢はこれまで最悪の危機に陥り、平和を取り戻すことは市民の夢に過ぎない」との悲観的な見方も出ています。