ウクライナ東部の紛争で、政権側と親ロシア派武装勢力が停戦に合意してから5日で1カ月となりました。交戦による死傷者数は大幅に減少したものの、東部ドネツク郊外の空港など要衝をめぐる戦闘は断続的に行われ、和平のもろさが浮き彫りになっています。
停戦合意の後もウクライナが戦車を東部に派遣(写真:Laodong)
ウクライナ政府と分離主義勢力は9月5日、OSCE=欧州安保協力機構などの仲介で、即時停戦とOSCEによる停戦監視などを盛り込んだ合意文書に署名しました。同月20日には、双方の部隊が15キロずつ撤退して幅30キロの「緩衝地帯」を設けることでも合意しました。
ただ、双方が緩衝地帯から重火器の搬出を終えたとの情報はなく、OSCE監視団の活動も本格的というにはほど遠い状況です。また、国連は8日、ウクライナ東部の戦闘による4月中旬以降の死者が今月6日時点で少なくとも3660人に上ったと明らかにしました。
平和を取り戻すための努力
こうした中、国際社会はウクライナに平和を取り戻すために努力しています。アメリカのケリー国務長官が3日、ロシアのラブロフ外相と電話協議し、停戦順守を求めました。一方、ロシアのプーチン大統領とOSCE議長国スイスのブルカルテル大統領は6日、ウクライナ東部情勢をめぐり電話会談し、5日で発効から丸1カ月を迎えた停戦合意の順守継続が重要との認識で一致しました。
さらに、ドイツのメルケル首相も10月1日、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行い、ウクライナ情勢をめぐり親ロシア派の活動を抑えるよう求めました。
停戦合意の政治的利益
ポロシェンコ大統領は26日実施予定の議会選で政治基盤を固め、和平合意への有権者の承認を得たい考えです。全般的に、「愛国機運」が高まっており、選挙では親露的な政党が大幅に後退する見通しです。
ただ、大統領の政党を含む親欧米派や民族派も、東部情勢を見極めようと本格的な選挙戦を手控えており、最終的な勢力図は見通せません。停戦合意で東部2州の親露派支配地域に「特別の地位」を与えるとされたことや、戦闘で数千人の死者が出ていることについて、親欧米派や民族派にも政権への「弱腰」批判 がくすぶっています。
衝突再発の危機
10月1日にはドネツクの学校や路線バスが砲撃を受けて10人が死亡、2日には同市内の赤十字国際委員会事務所付近にも砲弾が着弾し、職員1人が死亡しました。政府は4日、ドネツク空港が攻撃を受けたが、親露派の12人を殺害して撃退したと発表しました。
停戦合意後の死者は政権側だけで少なくとも30人に上り、実効支配領域の拡大と固定化を図る攻防が続いています。政府は、港湾都市マリウポリの掌握に向け、ロシアが親露派支援を強めているとも批判しています。これらの動きから見れば、ウクライナ東部で、激しい紛争が再発する可能性があるとの懸念が出ています。