既にお伝えしましたように、12日、アメリカ軍がシリアの反体制派を支援するため、同国北部で50トン分の武器弾薬を輸送機から地上に投下しました。これより前に、アメリカ政府はシリア反体制派勢力の訓練プログラムを中断する方針を明らかにしました。これらの動きはシリアに対するアメリカの政策が変化していることを示すものとみられています。しかし、これにより、シリア情勢がさらに複雑になると批判されています。
シリア反体制派勢力の戦闘員(写真:ロイター)
アメリカの支援を受けたのはシリア北部で過激派組織IS=「イスラム国」と戦うアラブ人勢力SCA=アラブ・シリア連盟です。SCAは4,5000人の戦闘員を有しています。アメリカ軍輸送機のC-17は戦闘機に先導され、シリア北部のハサカで小火器や弾薬、手りゅう弾などが入った貨物112個を、アメリカが承認する反体制派に向けて投下したということです。
訓練作戦から武器支援へと
年初から、アメリカ政府は5億ドルを投資し、シリア反体制派勢力の5千人規模の戦闘員を育成する計画でしたが、これまで約120人にとどまっており、十分に成果が出せないまま、事実上の軌道修正に追い込まれました。理由については「現地は非常に困難な戦闘地域になっている。
多くの異なる組織と異なる過激派が入り交じり、ひどく複雑だ」とし、国外で訓練した戦闘員が思うような成果をあげていないことなどをあげました。その直後、ISと戦闘中の反体制派に直接武器や装備を供与し始めました。実際、アメリカのIS弱体化の効果が上がらず、空爆は継続しますが、アメリカのシリアにおける戦略は手詰まり感が漂います。
また無効果か
アメリカ政府はシリア反体制派への武器供与はISとの戦いの効果向上としていますが、アナリストらは「これは正しくない」と指摘しています。特に、ロシア側は猛反発しています。
ロシアのプーチン大統領は、13日、「弾薬や装備がすべてIS側に渡ってしまうおそれはないのか。渡らないという保証はどこにあるのか」と述べ、アメリカ による武器支援を強く批判しました。そして、「ロシアは、シリアでの主導権を争っているわけではない」と主張し、「テロは、アメリカとロシア、それにヨー ロッパにとって危険だ」として、対テロでの連携の重要性を強調しました。
そのうえで、メドベージェフ首相率いるロシアの代表団をワシントンに派遣して、シリアの和平に向けた協議を行うよう、アメリカ側に提案したことを明らかにしました。プーチン大統領は、アサド政権を含めた「反テロ連合」の創設を呼びかけており、シリアでの戦略の練り直しを迫られているアメリカに揺さぶりをかけるねらいがあるとみられています。
こうした中、アナリストらは、「アメリカの政策の変化は、シリア情勢を複雑化させる」と指摘しています。そして、今後、アメリカがどのような措置を取るかが焦点となっています。