2011年のシリアにおける内戦勃発をきっかけに、世界にはシリアからの難民が急増しました。その結果、ヨーロッパ各国を中心として、難民の受け入れ問題は、ここ数年の国際社会における緊急の課題となっています。そんな中、ドイツは2015年以前から難民を大勢受け入れてきました。現時点でも、難民問題は欧州諸国の差し迫った問題となっています。
政情に悪影響
国連難民高等弁務官事務所の2014年度報告書によりますと、ドイツは「フランス、スウェーデン、イタリアを抑え、EU諸国において、最も多くの難民申請を受理している国」です。2015年9月に、オーストリアのファイマン首相と共に、ドイツとオーストリア2カ国で、ハンガリーに逃れた数千人のシリア難民を受け入れることを表明したのです。ベルリン在住の移民問題に関する専門家は決定の背景として、「ドイツは、他のヨーロッパ諸国と比較して、難民受け入れ賛成派の国民が多い」こと、「メルケル内閣で連立を組む最大野党の社民党が、難民の受け入れに積極的な姿勢を示していた」ことを指摘しています。2015年の大晦日に、ドイツ・ケルンで、アラブ人と北アフリカ人の難民ら約1000人が数百人のドイツ人女性を集団暴行する事件が発生したことが、世論の変化に大きく影響を与えました。
ギリシャの難民キャンプ(写真:AFP)
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によりますと、2015年に海から欧州に到達した難民・移民100万573人のうち、8割以上がまずギリシャに到達しました。その大半はレスボス島に上陸したということです。欧州にとって、現在の移民危機は第2次世界大戦以来最悪の事態となっています。
難民再定住が難航
1年前に、EUは2年間のうち、イタリアとギリシャに入国した難民16万人を再定住させる計画を採択しましたが、現時点で定住が図られた難民は3%未満しか達していません。さる5日、欧州委員会は加盟諸国に対し、難民再定住計画の展開を加速するよう促しました。しかし、オーストリア、ハンガリー、ポーランドは難民を受け入れていません。こうした中、ドイツのメルケル首相は、9月4日、実施された独北東部メクレンブルク・フォアポンメルン州の議会選で自身が率いるキリスト教民主同盟(CDU)が敗北したことを受けて、寛容な難民政策が原因だが、政策は正しいとして堅持する意向を示しました。メルケル氏の地元選挙区がある同州の議会選では、難民受け入れに反対する新興右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進し、CDUの得票率を上回りました。
欧州諸国が難民を受け入れてから、1年経った後、複数の問題に直面しています。EU・トルコ合意の実施の一環として、再定住については前進が見受けられるが、難民が 非合法なルートに戻ることを避けるために、加速化が必要です。ギリシャにおける人道的状況と、イタリアに到着する人の数が増加していることから、再定住への対応強化が、ますます急務となっています。