難民問題の行き詰まり


5月29日、国際医療援助団体MSF=国境なき医師団と国連はリビアからイタリアへ向かう難民ボートがこの1週間で相次いで転覆し、少なくとも約700人が死亡した可能性があると明らかにしました。これは、移民・難民問題で世界に警鐘を鳴らすものと見られています。


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シリア難民(写真:AFP)

移民・難民のほとんどはアフリカから来た人々です。ライフジャケットもなく、生命を脅かす様々な危険にもかかわらず、欧州に向かっています。


死亡者の急増

このところ穏やかな天候が続き、欧州を目指す難民・移民が増加しており、5月23日以降、約1万4000人が救出された一方、少なくともボート3隻の転覆が確認されました。特に、国連は、地中海を渡ってヨーロッパを目指す難民や移民の死者が今年に入ってから2500人以上にのぼり、去年の同じ時期よりも急増していることを明らかにしました。

イタリアのシチリア島で28日に取材に応じた生存者の難民らは、多くの女性や子どもを乗せた大型漁船が転覆・沈没したと話しました。こうした中、UNICEF=国連児童基金は関係各国と協力して人道活動を行うとしています。


難民問題を利用する犯罪

一方、欧州警察機関「ユーロポールは5月17日、密入国の斡旋組織に関する報告書を公表し、それによりますと、EUには昨年、100万人以上の移民らが流入しましたが、その9割以上が斡旋組織を利用し、支払いは1人当たり3200~6500ドルで、約5割が現金払いですが、地下送金システムの利用も約2割を占めました。

低コストで組織にとって「収益性が高い」とみています。報告書は、「テロ組織が斡旋組織のネットワークや資金を活用する恐れ可能性がある」と指摘し、「斡旋ネットワークとは厳しく戦わねばならない」としています。


行き詰まり状態

移民・難民問題で、EU=欧州連合は行き詰まり状態に陥っています。昨年9月から、EUは流入が止まらない難民への対応策をまとめましたが、この問題では欧州内部の亀裂が目立っています。難民や移民を各国がどう受け入れるかという詳細や、流入に歯止めをかける有効な手立てはまだ見えていません。

キャメロン英首相の報道官は5月31日、イギリス・フランス海峡を越えて流入する難民・移民を阻止するため、巡視船を増やすなど取り締まりを強化すると発表しました。移民問題は、イギリスのEU離脱・残留をめぐる議論の中でも大きな焦点となっています。

また、今年3月末に、EUとトルコは難民・移民の流入阻止のための新枠組みに関する合意を達成しましたが、トルコ人のEUビザ免除問題の対立で、この合意は失効する恐れがあります。

EUは、難民問題を先ごろ日本で行われたG7=主要7カ国首脳会議における「最優先課題」と位置づけ、緊急かつ長期的な国際協力の必要性を強調してきました。

また、トルコや、レバノンなどシリア難民を多く受け入れ、欧州への防波堤となっている国への経済支援や、国際社会全体で難民受け入れを分担するよう要請するなどして、問題解決のために努力してきましたが、解決までの道のりはなお遠いのが現実です。

 

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