民謡テンに情熱と生涯を注ぐ芸人モー・テイ・キットさん
(VOVWORLD) -2019年、民謡テン(Then)の儀式がユネスコ=国連教育科学文化機関の政府間委員会で無形文化遺産に登録されました。
モー・テイ・キットさん |
ベトナムの少数民族であるテイ(Tay)族、ヌン(Nung)族、タイ(Thai)族の民謡テンは北部山岳地帯に住むこれらの少数民族の文化生活と切り離せないものとなっています。テイ族の言葉ではテンは天地の「天」という意味ですから、テンを歌う人は村人を代表して、神様に豊作と幸福、豊かな生活を祈る人のことをいいます。
順調な天候を祈る民謡テンのほか、長寿、男女の幸せな愛、幸運などを祈るテンもあります。祭典で演奏されるテンのほか、日常生活で歌われているテンは故郷の旅情や人々の美しさを讃えるものもあります。
2019年、民謡テン(Then)の儀式がユネスコ=国連教育科学文化機関の政府間委員会で無形文化遺産に登録されました。
今年100歳になった北部山岳地帯ランソン省の民間芸人として認定されたモー・テイ・キットさんはランソン省の民謡テンの「宝物」と例えられています。キットさんは民謡テンの収集に力を入れると共に、1万ものテンのメロディーを歌うことができます。
(現場の音)
ランソン省ビンザ県に生まれたキットさんは15歳の頃から、民謡テンを歌い始めました。キットさんは1万のテンのメロディーを覚えており、テイ族の祭りで、3日間にわたり、連続して歌えることができます。毎年、春になると、キットさんは民謡テンの創始者を偲ぶと共に村人の団結を深めるため、自宅で、「テンののど自慢大会」を開催します。大会には村人の多くの人々が参加し、熱心にテンを歌います。村人はキットさんの優れた歌声を好むだけでなく、民謡テンの維持、保存に対する愛情を尊敬しています。キットさんの話です。
(テープ)
「私にとって民謡のテンは特別なものですよ。テンは人々に対し、互いに愛し合い、喧嘩をせずに、互いに助け合うことを教えています。テンを歌うのはお金のためではありません。テンを歌えると気持ちが嬉しくなってくるのです」
キットさんの娘であるノン・テイ・フオンさんはこの10年、母親がテンを歌う人生を物語にして本を書きました。今年末には、その本が出版されます。そのタイトルは「ランソン省のテンの魂を守る人」ということです。フオンさんの話です。
(テープ)
「母は15歳の頃から両親と兄を亡くしましたが、多くの困難に立ち向かい、強い精神で生活を送ってきました。85年間にわたり、民謡のテンを歌ったり、収拾したりしてきました。これは困難がいっぱいあった道のりですが、光栄なことでもありました。母は「人民芸術家」という称号を授与されたのです。母は私たちの誇りとなっています」
2015年、キットさんは国が優れたアーチストに送る「優秀芸術家」という称号を、そして、2019年には「人民の芸術家」という称号を授与されました。多くの文化研究者はテイ族やヌン族の民謡のテンを研究する時、キットさんを訪ねて、いろいろなことを聞きました。ベトバク文化芸術短期大学で、民謡テンを講義している講師グエン・スアン・バックさんは次のように語りました。
(テープ)
「キットさんが歌う民謡テンは特別なものです。1921年に生まれたキットさんが歌う民謡テンは昔から伝わる古いものであるということです。今年100歳になりましたが、歌声は依然として強いです。テンを歌う若い歌い手にとって、キットさんは貴重な教師です」
民謡テンの真の価値を紹介するため、キットさんがよく多くの地方で公演を行っています。ランソン省文化スポーツ観光局のホアン・バン・パオ元局長は次のように語りました。
(テープ)
「モーテイキットさんはランソン省の民謡テンの魂を守る人とされています。キットさんはテンの古いメロディーを維持、保存する他、若者たちに教えています。キットさんはランソン省に住む少数民族を始め、他の多くの少数民族の民謡テンの維持、保存に大きく貢献してきたと言えます」
民謡テンに対するキットさんのような人々の愛情により、今後、テンが引き続き歌われ、次の各世代に伝えることでしょう。