(VOVWORLD) - ヒガシオオヅルは絶滅危惧種の鳥で世界のレッドブックに記載されています。ヒガシオオヅルは、南部メコンデルタにあるドンタップ省、ならびにチャムチム国立公園のシンボルでもあります。
しかし、気候変動と生態環境の変化のため、2021年4月以来は、ヒガシオオヅルは通年のようにチャムチム国立公園に戻っていません。この事態をうけ、ドンタップ省は、チャムチム国立公園でのヒガシオオヅルを誘致するためのプロジェクトを実施しています。
チャムチム国立公園内のヒガシオオヅルの模型
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総面積7300ヘクタール以上のチャムチム国立公園は南部メコンデルタにあるドンタップ省の省都カオライン市から約35キロ離れた場所にあります。2013年に「ラムサール条約湿地」に認定されたこの国立公園には、およそ200種の鳥類と130種の植物が生息しています。その中で、ヒガシオオヅルはこの国立公園の誇りです。
オオヅルは頭の後ろから顔と頸のうえは赤いのが特徴ですが、ヒガシオオヅルは赤い部分が頸の中ほどまで広がっています。このツルはラオス、カンボジア、ベトナムに分布し、三亜種のなかでは数が少なく、減少傾向にあり、約1千羽程度と言われます。ヒガシオオヅルは乾期の11月から4月ころまでチャムチム国立公園へ飛来し越冬生活をおくります。しかし、昨年4月にチャムチム国立公園に現れてからは、ヒガシオオヅルの姿を見せていません。
(現場の音:鳥の音)
チャムチム国立公園の野鳥保護チームの職員であるフイン・タイン・トゥオイさんは、毎日ボートをそっと操縦して、ヒガシオオヅルがよく生息していたエリアに入って現場調査を行います。チャムチム国立公園で10年の経験をもつトゥオイさんによりますと、ヒガシオオヅルは乾季にのみ国立公園にやって来て、カヤツリグサ科の休眠中の根茎を乾燥した地中から掘り出して食べますが、冠水期になると、一番の好物であるカヤツリグサ科の根茎を食べることができなくなるため、このツルは去っていくそうです。トゥオイさんの話です。
(テープ)
「数年前までは毎年たくさんのツルが見られました。しかし、4年ほど前から公園にやってくるツルは少なくなりました。ツルの好きな食べ物であるカヤツリグサ科の根茎はまだありますが、ツルは戻ってきません」
ツルの餌はたくさんあるのに、ツルは戻ってこない。その理由はなんでしょう。チャムチム国立公園の報告書によりますと、その理由の 1 つは、自然生態環境、特に湿地と農業生産地域が深刻に悪化していることです。
メコンデルタだけでは、自然の湿地を水産物養殖や稲作用の土地に転換され、農業で化学物質を乱用することが生態系のバランスを破壊しています。また、自然保護地区でも、森林火災を防ぐために水を貯めておくことは生物多様性の減少につながっています。これにより、ヒガシオオヅルの生活に必要な環境が徐々になくなっており、このツルは絶滅してしまう恐れがあります。
1980 年代のチャムチム国立公園では、数千羽ものヒガシオオヅルがここに来て、春まで滞在する風景を撮影した写真や動画はたくさん残ってます。この鳥は「団結」のシンボルですので、チャムチム国立公園のスタッフにとって毎年ヒガシオオヅルがここにやってくることは大きな励ましとなります。そのため、ヒガシオオヅルがやってこないことは、この国立公園で働いている人に大きな不安を与えています。彼らの最大の願いは、このツルが以前のように定期的に、たくさんやってくることです。チャムチム国立公園国際協力研究部職員のチャン・コック・ヴオンさんは次のように語りました。
(テープ)
「長年ここで働いている私は、ツルがやってくるのを見るととても嬉しくなります。ツルの鳴き声を聞くと、自分自身が自然と一緒になるような感じがします。ツルは珍しい鳥で、精神的にも文化的にも神聖なものです。特にツルはチャムチム国立公園のシンボルです」
ヒガシオオヅル飼育用の鳥小屋
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チャムチム国立公園に飛来するヒガシオオヅルが徐々に減少している状況を前に、ドンタップ省は今年5月、チャムチム国立公園でヒガシオオヅルの保護・育成プロジェクトを開始しました。このプロジェクトは、ヒガシオオヅルを育てて野生に戻すことで、国立公園でのヒガシオオヅルの回復・発展を目指すものです。プロジェクトでは、2023年~2033年までの10年以内に150羽のツルを飼育し、自然環境に戻した際に、少なくとも100羽が生存し、自力で繁殖させるという目標を持っています。
チャムチム国立公園におけるヒガシオオヅルの保護・育成プロジェクトは、主に4つの内容から構成されています。これらは、ツルの飼育と自然への放鳥、ツルの生息環境の改善、公園の周囲にある有機農業生産地域の構築、およびヒガシオオヅルに基づいた持続可能な生計を立て、地元のコミュニティにツルの保護への参加を働きかけることです。プロジェクトの総額は約920億ベトナムドン(日本円で約5億5千万円)です。
現在、チャムチム国立公園は、ヒガシオオヅル飼育用の鳥小屋の設計と、ツルを飼って自然に放す計画の立案を完成させました。今年末までにタイからベトナムにヒガシオオヅルを運び、飼育する予定です。チャムチム国立公園所属国際協力センターのドアン・バン・ニャン副所長は次のように語りました。
(テープ)
「このプロジェクトは、ツルの生態的特性に基づいて、ツルの帰還を目指します。ツルの飛来のピークは例年4月下旬ですが、5月上旬に去り始めます。ツルが雨の量に応じて遅かれ早かれ去ります。6月か7月に始まる梅雨はツルの繁殖の季節です。ツルが繁殖するまで無事に飼育することが私たちの最大の願いです」
(現場の音:鳥の鳴き声)
ドンタップ省はこれまでに、国際ツル協会およびベトナム動物園協会と、タイで飼育されているヒガシオオヅルのヒナの移送に関する覚書を締結しています。また、同省は、職員の研修を実施し、ヒガシオオヅルの飼育、放鳥、監視のための施設を開発しました。これらの取り組みにより、チャムチム国立公園にはヒガシオオヅルの姿がまた現れるでしょう。